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一般企業法務

第22回企業法務コラム 契約書のチェックを弁護士に依頼すべき理由

「取引先から契約書が届いたけど、読んでも難しくてよくわからない。とりあえずサインしてしまおうか……」。そんな経験は、北海道・札幌の中小企業経営者の方なら一度はあるのではないでしょうか。特に法務担当者を置く余裕のない中小企業では、社長自身が契約書に目を通し、「問題なさそうだ」と判断してサインするケースが少なくありません。しかし、その判断の裏にどれほどのリスクが潜んでいるか、意識されているでしょうか。

中堅・中小企業の担当者の実態調査では、6割が「契約書の内容の検討不足や確認ミスが原因でトラブルを経験した」と回答しており、取引先との関係悪化や金銭的負担、さらには紛争にまで発展するケースが実際に発生しています。これは決して他人事ではありません。

また、近年は法改正の動きも活発です。2020年4月1日に施行された改正民法では、「瑕疵担保責任」という概念が廃止され、「契約不適合責任」に改められました。さらに、2025年5月16日に国会で下請法等の改正法が成立し、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されました。こうした法改正への対応を誤ると、旧来の契約書がそのまま使えなくなる事態も生じます。

今回のコラムでは、契約書のチェック(リーガルチェック)をなぜ弁護士に依頼すべきなのか、具体的なリスクと合わせて、中小企業経営者の方にもわかりやすく解説します。

契約書のリーガルチェックとは何か?

リーガルチェックの定義と目的

リーガルチェックとは、契約書や利用規約などの文書について、法的な観点から内容が適切であるかどうか、法令違反がないか、自社に不当に不利益な条項が含まれていないか、トラブルのリスクのある条項がないか、取引内容に合致しているかなどを精査する作業のことです。「契約書レビュー」と言われることもあります。

「契約書は読めばわかる」と思われがちですが、実際には読んで意味が理解できることと、法的なリスクを正確に評価できることはまったく別物です。契約書には「確認機能」「紛争予防機能」「立証機能」という3つの機能が認められており、一言一句に対して顧問弁護士などによる厳しいリーガルチェックが大切です。

「問題なさそう」が危ない理由

大企業には法務部があって、契約書を専門的にチェックする人がいます。でも、中小企業や個人事業主にはそんな余裕はなく、社長自身が読んで判断してサインするケースが多い。問題は、「読んだけど問題なさそうだった」という判断に、どれだけのリスクが隠れているかということです。実際に、取引先から届いた契約書にそのままサインし、2年後にトラブルになって契約書を見返したら、損害賠償の上限が定められておらず、先方から数百万円の請求が来て初めてその契約書の意味が分かった、というケースもあります。

契約書は締結してしまうと、その内容に拘束されます。たとえ内容が自社に不利であっても、一度合意した以上は「知らなかった」では済まされません。だからこそ、締結前のリーガルチェックが極めて重要です。

弁護士によるチェックで発見できる具体的なリスクとは?

強行規定違反・無効条項の見落とし

契約書に書いてあれば何でも有効というわけではありません。個別の契約条項が強行規定(当事者の合意があっても変えられない法律の規定)に反する場合には、当該条項が無効になってしまい(民法91条)、意図した法的効果を得られなくなるおそれがあります。たとえば、消費者契約法2条3項の「消費者契約」に該当する契約書において、事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項を定めたとしても、その条項は無効になります(消費者契約法8条1項)。

民法、労働基準法、下請法(現:中小受託取引適正化法)や借地借家法、独占禁止法、消費者契約法など、さまざまな法律に強行法規が規定されているため、契約書のリーガルチェックを行う際には、これらの強行法規に反する内容がないかどうかも確認しておく必要があります。こうした多数の法律を経営者が漏れなく把握しておくことは、事実上不可能です。

曖昧な表現・抜け漏れ条項によるトラブル

契約書の文言が曖昧だと、当事者間で解釈が分かれ、トラブルの原因となります。たとえば、業務委託契約で「必要な業務」と記載されていた場合、どこまでが「必要な業務」に含まれるのか、委託者と受託者で認識が異なることがあります。このような認識の相違は、取引が始まった後になって表面化することが多く、取り返しのつかない事態につながりかねません。

具体的によくあるリスクを整理すると、以下のようなものが挙げられます。

  • 納期・検収条件が曖昧:納期に関する条項が曖昧であったため、相手方の納品遅延に対して損害賠償を請求できなかったケースや、品質基準が明確でなかったため不良品の納品を拒否できず追加費用が発生したケースがあります。
  • 損害賠償の上限・範囲が未定:損害賠償の範囲や上限、責任の所在が明確に定められていない契約書は、トラブル発生時に大きな問題を引き起こします。特に相手方から提示された契約書をそのまま締結した場合、自社にとって不利な条項が含まれていることが少なくありません。
  • 雛形の使い回し:無料テンプレートや自社による作成は、一見コスト削減に見えても、取引内容との不一致や不利な条項の見落としといった「隠れたコスト」による損失につながる危険性があります。
  • 一般条項(合意管轄・秘密保持等)の見落とし:期限の利益喪失条項、契約解除条項、債権譲渡禁止条項、秘密保持条項、損害賠償額の予定・違約金条項、反社条項、不可抗力条項、連帯保証人条項、合意管轄条項など、多くの契約書で共通に用いられる条項を「一般条項」といいますが、これらを見落としてサインすると予期せぬ不利益が生じる可能性があります。

知らないと危ない!最新の法改正と契約書への影響

民法改正による「契約不適合責任」への変更(2020年4月施行)

2020年4月に施行された民法(債権法)改正によって、「瑕疵」という文言は使われなくなり、「契約の内容に適合しないもの」という文言に改められ、これまで「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものは「契約不適合責任」と呼ばれるようになりました。これにより、買主の救済の幅が広がり、追完請求・代金減額請求・契約の解除・損害賠償請求など、多様な権利行使が可能となりました。

問題は、改正前に作成した契約書や、インターネットで入手した古い雛形をそのまま使い続けているケースです。旧来の「瑕疵担保責任」の表現を使った契約書では、改正民法との整合性に問題が生じる可能性があります。弁護士によるレビューを受ければ、こうした法改正への対応が漏れなく行われているかどうかを確認してもらえます。

下請法から「取適法」への改正(2026年1月施行)

中小企業・個人事業主の味方である「下請法」が改正され、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法(取適法)」に変わりました。近年の急激な労務費・原材料費・エネルギーコストの上昇を受け、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現が不可欠であるとして、この法改正が行われました。

この改正の実務上のポイントとして、以下の点が特に重要です。

  • 価格協議への対応義務:中小受託事業者からの価格協議の求めに応じずに一方的に代金を決定することは違反になりました。また、協議を明示的に拒む場合だけでなく、協議の求めを無視したり、協議を繰り返し先延ばしにするなど、協議を困難にさせた場合も違反になります。
  • 手形払いの禁止:新たなルールとして、手形での支払いが禁止されます。紙の約束手形・小切手は2027年3月末までに廃止されます。
  • 契約書・社内規程の見直し:下請法などに関する旧名称や用語が使われた契約書の雛形、発注書面、社内規程・マニュアル、帳簿類などを確認し、改正後の用語に修正する必要があります。

こうした改正への対応が求められる今こそ、既存の契約書を弁護士に見直してもらう絶好のタイミングです。顧問弁護士がいれば、こうした法改正の情報をいち早くキャッチし、必要な対応を先手で取ることができます。

弁護士に依頼することの具体的なメリット

単なる「チェック」を超えた法的サポート

「弁護士に頼むと費用がかかる」と感じる経営者の方も多いかもしれません。しかし、リーガルチェックを怠った場合のリスクと比較すると、その費用は十分に合理的な投資といえます。

弁護士は、法律の専門家として契約書の表現や構造のリスクを的確に判断できます。また、実際のトラブル事例に関する豊富な経験をもとに、「このままだと紛争になる可能性がある」といった指摘をして、トラブルの起きづらい内容に修正することも可能です。さらに、弁護士は単に契約書の文面をチェックするだけでなく、交渉を前提とした修正案を提示できる点も大きな強みです。

一方、弁護士は独立した立場から客観的な意見を提供できるため、社内の利害関係に影響されない公平な判断が可能です。複雑な法律問題や重要な契約においては、弁護士によるリーガルチェックが不可欠です。

顧問弁護士であればさらに効果が高い

継続的に多数の契約書レビューが発生する場合や、日常的に法律相談を行いたい企業にとっては、スポット依頼を都度行うよりも費用を抑えられる可能性が高いと言えます。顧問弁護士は、自社の事業内容や状況を継続的に把握しているため、より迅速かつ的確なレビューやアドバイスが期待できる点もメリットです。

顧問契約のサービス内容は法律事務所によって様々ですが、月額数万円の顧問料で複数の契約書をチェックしてもらえるプランも多くみられるので、リーガルチェックを依頼する機会が多い企業にとっては、顧問弁護士サービスを利用することがコストパフォーマンスの高い方法といえます。

また、顧問弁護士がいると、以下のような場面でも迅速に対応できます。

  • 新規取引先との契約交渉:相手方有利の条項を見抜き、修正交渉をサポートしてもらえる
  • 既存契約書の定期的な見直し:法改正に合わせたアップデートを継続的に行える
  • 取引トラブルの早期解決:契約内容を熟知した弁護士がいれば、初動対応が速くなる
  • 業種特有のリスクへの対応:法律や規制の変更に伴い契約内容の見直しが必要になる場面や、海外企業との取引、企業の合併・買収や事業譲渡など、特殊な分野では専門家のサポートが特に重要です。

契約書チェックを弁護士に依頼する際の実務的な手順

依頼のタイミングと準備すること

「いつ弁護士に相談すればよいのか」という点も、多くの経営者が悩むポイントです。答えは明確で、必ず契約書にサインする前です。締結後に問題が発覚しても、すでに法的拘束力が生じているため、修正や解除が難しくなります。

弁護士への依頼をスムーズに進めるために、以下を事前に整理しておきましょう。

  • 取引の概要:何をどのような条件で取引するのか(商品・サービスの内容、金額、期間)
  • 相手方との関係:新規取引か継続取引か、力関係(元請け・下請けなど)はどうか
  • 懸念点・確認したいポイント:特に気になる条項があれば事前にメモしておく
  • 期限:契約締結の期限がいつまでか(早めに相談するほど対応の幅が広がる)

AIツール・雛形との使い分けについて

近年、AIを活用した契約書チェックツールが普及してきています。しかし、AIは大量の条項データや文言のパターンに基づき機械的にチェックする点で優れていますが、契約の背景事情や取引の目的に応じた判断までは困難です。そのため、AIで指摘された内容を踏まえ、最終的には人間が判断・対応することが重要です。重要契約や複雑な条項については法務部門や弁護士がレビューする体制を整えることが推奨されます。

また、弁護士以外の者が「法律事務」を有償で行うことは弁護士法第72条で禁止されています。法的助言を必要とする場面では、必ず弁護士に相談することが重要です。

契約書のチェックに代表される予防法務は、損失を回避する先行投資です。予防法務に関する費用は、一見コストに思えますが、事業の安定と成長に不可欠な投資となります。北海道・札幌の中小企業においても、建設・製造・IT・小売など業種を問わず、取引の増加とともに契約書の重要性は高まっています。顧問弁護士を活用した「攻めの法務」への転換が、企業の競争力強化につながります。

おわりに

今回のコラムでは、契約書のチェックをなぜ弁護士に依頼すべきなのかについて、具体的なリスクや法改正の動向とあわせて解説しました。要点を整理すると、以下のとおりです。

  • 中小企業の6割が契約書の確認不足によるトラブルを経験しており、他人事ではない
  • 「読んで問題なさそう」という判断の裏に、強行規定違反・曖昧な文言・抜け漏れ条項などのリスクが潜んでいる
  • 2020年の民法改正(契約不適合責任)や2026年施行の取適法(旧下請法)など、法改正への対応が既存の契約書にも影響する
  • 弁護士は文面チェックだけでなく、交渉を前提とした修正案の提示や法改正への対応もサポートできる
  • 顧問弁護士を活用すれば、コストを抑えながら継続的・予防的な法務体制を構築できる

契約書は、一度サインしてしまえば取り返しのつかない法的拘束力を持ちます。「トラブルが起きてから弁護士に相談する」ではなく、「トラブルが起きる前に顧問弁護士と確認する」という習慣が、経営の安定と成長を支える最も確実な方法です。

当事務所では、北海道・札幌の中小企業向けに、顧問弁護士サービスを提供しています。契約書のチェックや労務問題、取引先とのトラブル対応など、日常的な法律相談から紛争解決まで幅広くサポートいたします。初回相談は無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

簗田真也

弁護士法人やなだ総合法律事務所、代表弁護士。札幌弁護士会所属。スタートアップ・ベンチャー法務、不動産法務、M&A、事業再建・会社清算、国際取引法務を得意とする。弁護士・司法書士・行政書士のトリプルライセンスホルダーでもある。

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