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一般企業法務

第15回企業法務コラム 2026年1月施行「取適法」への対応完全ガイド

「また今月も支払いが遅れているけど、取引先が大企業だから何も言えない…」こんな悩みを抱えている中小企業の経営者の方は少なくありません。原材料費や光熱費が高騰する一方で、価格の見直しを求めても「今は厳しいから」と一方的に断られる。手形での支払いで現金化まで時間がかかり、資金繰りに苦しむ。北海道・札幌の中小企業の現場でも、こうした声は日常的に聞かれます。

こうした状況に対し、2026年1月1日、大きな法改正が施行されました。従来の「下請法」が抜本的に見直され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、通称「取適法(とりてきほう)」となったのです。この法改正は、単なる名称変更にとどまらず、中小企業の保護を大幅に強化し、価格協議の義務化や手形払いの原則禁止など、実務に大きな影響を与える内容が盛り込まれています。

発注する側の企業にとっても、受注する側の企業にとっても、この新しいルールを正しく理解し、適切に対応することが求められます。違反すれば企業名が公表され、罰金が科されるリスクもあります。今回のコラムでは、2026年1月施行の「取適法」について、その概要から改正の重要ポイント、実務上の対応策まで、中小企業経営者の視点でわかりやすく解説します。

取適法とは何か?下請法から何が変わったのか

取適法の正式名称と目的

取適法は、正式名称を「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」といい、通称「中小受託取引適正化法」の略称で、2026年1月1日に施行されました。近年、労務費や原材料費などのコストが急激に上昇している中、中小企業を始めとする事業者が賃上げの原資を確保し、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を目指すために、取引の適正化と価格転嫁の促進を図る法改正が行われました。

これまで下請法では、発注者(親事業者)と受注者(下請事業者)という言葉が使われてきましたが、「下請」という言葉には、委託側と受託側の上下関係を連想させる側面がありました。そのため、従来の「親事業者」は「委託事業者」に、「下請事業者」は「中小受託事業者」に変更されます。この名称変更には、事業者間の対等な関係を重視するという法律の基本姿勢が示されています。

なぜ今、法改正が必要だったのか

従来の下請法にはいくつかの課題がありました。資本金のみを基準に適用対象を判断していたため、実質的な事業規模は大きいものの、資本金が少額である事業者や、減資をすることで下請法の対象となることを回避する事業者が存在することが問題視されていました。また、労務費や原材料費が高騰しているにもかかわらず、価格交渉の機会すら与えられない中小企業の声が高まっていました。

さらに、手形での支払いにより資金繰りの負担が中小企業に押しつけられる状況や、運送業界での荷待ち時間の無償化など、様々な業界で不公正な取引慣行が問題となっていたのです。こうした背景から、より実効性のある法規制として取適法が誕生しました。

取適法の5つの重要な改正ポイント

①従業員数基準の新設-対象企業が大幅に拡大

従来の下請法では、資本金の額のみで適用対象を判断していましたが、取適法では、これまでの資本金基準に加え、従業員数による基準(常時使用する従業員数300人(製造委託等の場合)又は100人(役務提供委託等の場合))が新たに追加されます。

具体的には、製造委託・修理委託・運送委託などでは従業員300人超情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成や運送など特定業務を除く)では従業員100人超の企業が委託事業者として規制対象となります。従業員数基準は「常時使用する従業員」、すなわち賃金台帳の対象となる労働者の人数で判定します。

この改正により、これまで資本金が少ないため下請法の対象外だった企業も、取適法の規制対象となる可能性があります。特に北海道内の中堅企業では、資本金は控えめでも従業員数が多い企業が少なくありません。自社が新たに委託事業者に該当する場合、契約書の見直しや社内規程の整備が必要になります。

②運送委託の対象追加-物流業界にも影響

従来の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、新たに「特定運送委託」が追加されました。これまでは独占禁止法の枠組みにより規制されていましたが、無償で荷役・荷待ちをさせられている問題などを受け、取適法の対象に追加されるものです。

特定運送委託とは、荷主が自社製品の運送を運送事業者に委託する取引のことです。北海道のように広大な地域を抱える地域では、物流コストが経営に与える影響は大きく、この改正は運送業界だけでなく、製造業や小売業など幅広い業種に影響を与えます。自社製品の配送を外部の運送会社に委託している企業は、この新しいルールへの対応が必要です。

③価格協議義務の明文化-価格据え置きは違反に

取適法の大きな改正ポイントの一つが、価格協議の義務化です。労務費や原材料価格、エネルギーコストなどが高騰したことを理由に、受注側が取引価格の引き上げを求めて協議を申し入れた場合、発注側は正当な理由なくこの協議を拒否することができなくなります。

協議を明示的に拒む場合だけでなく、例えば、協議の求めを無視したり、協議を繰り返し先延ばしにしたりして、協議を困難にさせる場合も違反になります。これまで「価格交渉の機会さえ与えられない」という中小企業の声が多く聞かれましたが、この改正により、少なくとも協議のテーブルに着くことが法的に義務付けられました。

注意が必要なのは、これは「値上げに必ず応じる義務」ではなく、「協議に応じる義務」である点です。しかし、話し合いを一方的に拒否したり、無視したりすることは明確な違反行為となります。

④手形払いの原則禁止-現金化までの期間短縮

取適法では、手形による代金の支払いは違反になります(「支払遅延」に該当)。また、電子記録債権やファクタリングを使用する場合にも、支払期日(最長で、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内)までに代金満額相当の現金を得ることが困難であるものは禁止されます。

これまで約束手形での支払いでは、受領から現金化までに120日以上かかるケースもありました。支払期日までに支払わなかった場合、日数に応じて遅延利息(年率14.6%)を支払う義務が新たに追加されました。この改正により、中小企業の資金繰りは改善される一方、委託事業者側では資金計画の見直しが必要になります。

なお、政府はペーパーレス化・デジタル化を推進する一環として「約束手形の完全廃止を2026年度末(2027年3月末)までに行なう」方針を示しており、実務上は段階的に手形取引が縮小されていく形になります。

⑤面的執行の強化-複数省庁での監視体制

複数の省庁が連携して違反行為に対応する「面的執行」が強化されます。これまでは公正取引委員会や中小企業庁が違反行為に対して指導・助言を行ってきましたが、事業所管省庁の主務大臣にも指導・助言の権限が付与されます。

これにより、業界ごとの実態に即した監督体制が構築され、違反行為の早期発見と是正が期待されています。また、違反を通報したことを理由に不利益な扱いを受けた場合の相談先も拡大されました。

委託事業者(発注側)に課される4つの義務

書面交付義務-発注内容の明確化

委託事業者は、発注する際に、委託内容、報酬額、納期、支払期日といった契約の重要事項を記載した書面(または電磁的方法による記録)を直ちに交付しなければなりません。口頭での発注や、曖昧な内容での依頼は認められなくなります。

なお、委託内容の明示に当たっては、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールなどでも可能になりました。これにより、電子契約システムやメールでの発注書交付がしやすくなりましたが、相手方から紙の書面を求められた場合には応じる必要があります。

支払期日の設定義務-60日以内の支払い

報酬の支払期日は、成果物を受領した日(役務提供の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定めなければなりません。この60日は、検査をするか否かにかかわらず、給付を受領した日から計算することになりますので、例えば「納品時の検査に合格した日から60日」などと定めることは取適法3条に違反してしまうことになります。

支払期日の設定は、実務上のトラブルになりやすい項目です。契約書や発注書に明確に記載し、確実に守ることが求められます。

取引記録の作成・保存義務-2年間の保管

委託した業務内容や支払い状況など、取引に関する一連の記録を作成し、2年間保存する義務があります。記録の内容には、発注内容・代金の額・支払日・受領日などが含まれます。公正取引委員会への報告や調査に対応できるよう、適切に管理しておく必要があります。

中小企業では書類管理が煩雑になりがちですが、取適法対応としては避けて通れない義務です。電子契約システムやクラウドストレージを活用することで、管理負担を軽減できます。顧問弁護士がいれば、どのような記録を残すべきか、どう管理すべきかについて具体的なアドバイスを受けることができます。

遅延利息の支払義務-年率14.6%

定めた支払期日までに報酬を支払わなかった場合、受領日から60日を経過した日から実際に支払う日までの日数に応じ、年率14.6%の遅延利息を支払わなければなりません。また、正当な理由なく委託事業者が製造委託等代金を減額した場合、減額部分について遅延利息の支払い対象になります。

この利率は非常に高く、支払いの遅延は企業の財務に大きな影響を与えます。支払管理を徹底し、期日を守ることが何よりも重要です。

取適法で禁止される11の行為

取適法では、委託事業者による11の禁止行為が定められています。これらは従来の下請法でも禁止されていた行為が中心ですが、取適法では新たに「協議に応じない一方的な代金決定」と「手形払等」が追加されました。

主な禁止行為

  • 受領拒否:発注した物品や成果物の受領を拒否する行為
  • 支払遅延:支払期日までに代金を支払わない行為、手形払い
  • 減額:あらかじめ定めた代金を減額する行為
  • 返品:受領した物品を返品する行為
  • 買いたたき:通常の対価に比べて著しく低い額を不当に定める行為
  • 購入・利用強制:委託事業者が指定する物・役務の強制的購入・利用
  • 報復措置:公正取引委員会等への通報を理由とした不利益な取扱い
  • 協議に応じない一方的な代金決定(新設)
  • 振込手数料の負担転嫁

実務上は、「契約書に書いてあるから」「相手が了承しているから」という理由でも、実態として不当であれば違反と判断される可能性があります。長年の商慣習であっても、取適法に照らして問題がないか、一度見直すことが重要です。

違反した場合のリスクと罰則

公正取引委員会からの勧告と企業名公表

取適法に違反した委託事業者は、公正取引委員会・中小企業庁長官・事業所管大臣の指導や助言のほか、公正取引委員会の勧告を受けることがあります。勧告を受けた場合は、原則として事業者名や違反事実の概要などが公表されるため、レピュテーションが毀損されるおそれがあります。

企業名の公表は、取引先や株主、消費者からの信頼低下を招き、ビジネスに深刻な影響を与えます。特に昨今はコンプライアンスに対する社会の目が厳しく、SNSなどで情報が拡散される時代です。法令遵守の姿勢が企業価値そのものに直結します。

刑事罰-50万円以下の罰金

以下の行為は刑事罰の対象とされており、違反者と法人がいずれも「50万円以下の罰金」に処されます。具体的には、書面交付義務違反、報告拒否・虚偽報告、検査拒否・妨害などが該当します。

罰金額自体は比較的軽微に見えますが、刑事罰を受けたという事実は企業にとって大きなダメージです。取引先との契約条件や入札資格にも影響を与える可能性があります。

損害賠償請求のリスク

取適法違反により中小受託事業者に損害を与えた場合、民事上の損害賠償請求を受けるリスクもあります。遅延利息の支払いや減額分の返還だけでなく、取引関係の悪化や訴訟対応のコストも考慮すると、違反行為のリスクは計り知れません。

中小企業が取るべき実務対応

委託事業者(発注側)の対応

①自社と取引先の該当性チェック

まず、自社が委託事業者に該当するか、取引先が中小受託事業者に該当するかを確認します。従業員数基準が新設されたため、これまで対象外だった企業も規制対象となる可能性があります。資本金と従業員数の両方を確認しましょう。

②契約書・発注書の見直し

取適法で求められる記載事項が網羅されているか、契約書や発注書のテンプレートを見直します。特に、支払期日(60日以内)、手形払いの削除、価格協議条項の追加などが重要です。

③支払条件の見直し

手形払いを行っている場合は、現金(銀行振込)払いへの移行が必須です。支払サイトの短縮も含めて資金繰り計画を再検討する必要があります。

④社内規程の整備と研修

購買部門や業務委託を行う部門の担当者に対し、取適法の内容を周知徹底します。禁止行為に該当する行為を防ぐため、社内規程やマニュアルを整備し、定期的な研修を実施することが重要です。

中小受託事業者(受注側)の対応

①自社の権利の理解

取適法により、価格協議を申し入れる権利、適正な支払期日を求める権利など、様々な保護が強化されました。自社の権利を正しく理解し、不当な扱いを受けた場合には適切に対応することが重要です。

②契約内容の確認

委託事業者から提示される契約書や発注書に、取適法で求められる記載事項が含まれているか確認しましょう。支払期日が60日以内になっているか、手形払いの条項が残っていないかなど、細かくチェックします。

③価格交渉の積極的な実施

原材料費や人件費が高騰している場合、価格協議を申し入れる権利があります。委託事業者が協議を拒否することは違反行為ですので、遠慮せずに交渉の場を求めましょう。

④相談窓口の活用

委託事業者との取引で、「価格協議に応じてもらえない」「代金が全然支払われない」など、取適法に違反しているのではと思ったときは、公正取引委員会の相談窓口にご相談ください。相談した内容が委託事業者に知られることはありません。フリーダイヤル(0120-060-110)で相談できます。

顧問弁護士がいることのメリット

取適法への対応は、法律の専門知識と実務経験が求められる分野です。顧問弁護士がいれば、以下のようなサポートを受けることができます:

  • 自社が取適法の対象取引に該当するかの判定
  • 契約書・発注書のリーガルチェックと改訂
  • 価格協議の進め方や記録の残し方についてのアドバイス
  • 違反行為を指摘された場合の対応
  • 社内研修の実施サポート
  • 公正取引委員会への対応支援

特に札幌や北海道内の中小企業では、取引先が道外の大企業であることも多く、力関係で不利な立場に置かれがちです。顧問弁護士という法律の専門家が味方にいることで、対等な立場で交渉を進めることができ、不当な要求を拒否する根拠を示すことができます。

おわりに

2026年1月に施行された取適法は、中小企業の保護を大幅に強化し、事業者間の対等な取引環境を実現するための重要な法改正です。従業員数基準の新設運送委託の追加価格協議義務の明文化手形払いの原則禁止という4つの柱により、これまで不公正な扱いを受けてきた中小企業にとっては大きな追い風となります。

一方で、委託事業者(発注側)にとっては、契約書の見直し、支払条件の変更、社内規程の整備など、対応すべき事項が多岐にわたります。違反すれば企業名が公表され、罰金が科されるリスクもあるため、早急な対応が求められます。また、受注側の中小企業にとっても、自社の権利を正しく理解し、適切に主張することが重要です。

北海道・札幌の中小企業においても、取引先との関係を見直し、取適法に沿った公正な取引体制を構築することが、持続可能な経営の基盤となります。法改正への対応は一見負担に感じられるかもしれませんが、長期的には健全な取引関係の構築につながり、企業価値の向上にも貢献します。

取適法への対応でお悩みの際は、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。契約書のチェックから社内体制の整備まで、実務に即したサポートを受けることができます。

当事務所では、北海道・札幌の中小企業向けに、顧問弁護士サービスを提供しています。契約書のチェックや労務問題、取引先とのトラブル対応など、日常的な法律相談から紛争解決まで幅広くサポートいたします。初回相談は無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

簗田真也

弁護士法人やなだ総合法律事務所、代表弁護士。札幌弁護士会所属。スタートアップ・ベンチャー法務、不動産法務、M&A、事業再建・会社清算、国際取引法務を得意とする。弁護士・司法書士・行政書士のトリプルライセンスホルダーでもある。

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