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一般企業法務

第24回企業法務コラム 問題社員への対応と解雇の法的リスク

「あの社員、毎日遅刻してくる。注意してもまったく改善しない。もう辞めさせたい……」「業務指示を無視してばかりで、周りの社員への影響も出てきた。いっそ解雇できないか?」――こうした悩みを抱える中小企業の経営者・管理職の方は、北海道・札幌でも少なくありません。従業員数が限られる中小企業では、一人の問題社員が職場全体の士気や生産性に直結しやすく、「早く何とかしたい」という気持ちも十分理解できます。

しかし、日本の労働法は従業員の地位を強く保護しており、「問題がある」「もう限界だ」と感じただけでは、すぐに解雇することはできません。安易に解雇に踏み切ると、後から「不当解雇」として労働審判や訴訟を起こされ、多額の解決金を支払う羽目になるケースが全国的に後を絶ちません。経営者が「正しいことをした」と思っていても、法的に無効と判断されてしまうケースが多数あるのが現実です。

一方で、「問題社員を放置し続ける」ことも、職場環境の悪化や他の優秀な社員の離職につながる大きなリスクです。「注意したら逆ハラスメントと言われそうで怖い」「どこまでやったら解雇できるのか基準がわからない」という声もよく聞かれます。問題社員への対応は、法律の知識なしに進めると、会社側がどちらに転んでも損をしかねない難しい問題です。

今回のコラムでは、北海道・札幌の中小企業経営者・管理職の方に向けて、問題社員への正しい対応ステップと、解雇に関する法的リスクをわかりやすく解説します。「解雇は最後の手段」という考え方を軸に、会社を守るために今すぐ実践できる具体的な対応策をお伝えします。

そもそも「問題社員」とは?よくある類型と放置リスク

問題社員のよくある類型

「問題社員」という言葉に法律上の定義はありませんが、実務上は次のような行動を繰り返す社員を指すことが多いです。

  • 遅刻・無断欠勤を繰り返す(勤怠不良)
  • 業務指示を無視する・上司に反抗的な態度をとる
  • 業務能力が著しく低く、指導しても改善しない
  • 他の社員へのハラスメント(パワハラ・セクハラ)を行う
  • 会社の機密情報を漏洩する・横領など不正行為を行う
  • SNSで会社の信用を傷つける投稿を行う

問題社員は一人でも、職場全体に悪影響を与えます。真面目に働いている社員が疲弊して離職してしまったり、取引先への信用が損なわれたりと、被害は会社全体に及びます。だからこそ、「見て見ぬふり」ではなく、早期に適切な対応を始めることが重要です。

問題社員を放置した場合のリスク

問題社員への対応は、一歩間違えると会社にとって大きなトラブル・損害をもたらす可能性があります。また、日本の法律上、問題社員であっても従業員の地位は非常に強く保護されており、いきなり解雇すると、解雇権の濫用として処分が無効となる可能性があります。

放置することで起こりうる主なリスクは以下のとおりです。

  • 職場の雰囲気悪化・優秀な人材の流出
  • 他の社員によるモラルハザード(「あの人が許されるなら自分も」という意識)
  • ハラスメントの被害者が出た場合の会社の使用者責任
  • 指導記録がないまま解雇に踏み切り、後から不当解雇を争われるリスク

問題社員の問題に気づいた時点で、法的に正しい手順で対応を開始することが、会社を守る第一歩です。顧問弁護士がいれば、問題が深刻化する前の初期段階から対応方針を相談できます。

解雇の種類と法的要件|「クビにする」前に必ず知ってほしいこと

解雇には3つの種類がある

一口に「解雇」と言っても、法律上は大きく3種類に分かれます。

  • 普通解雇:能力不足・勤怠不良・傷病による就労不能など、従業員側の事情を理由とする解雇
  • 懲戒解雇:横領・重大な規則違反・ハラスメントなど、企業秩序を著しく乱した場合に制裁として行う解雇
  • 整理解雇:経営悪化など会社側の事情(経営上の理由)に基づく解雇

いずれの解雇にも解雇権濫用法理が適用されますが、労働者に与える不利益の大きさや解雇の性質から、それぞれ異なった判断がされます。いずれのケースでも、会社側には解雇の正当な理由を立証する責任があり、不当解雇であれば無効となります。

解雇が有効になるための2大要件(解雇権濫用法理)

日本では、解雇に関して非常に重要な法原則があります。それが「解雇権濫用法理」です。

労働契約法第16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。つまり、解雇が有効になるためには、①客観的に合理的な理由があること、②社会通念上相当であること、この2つをどちらも満たす必要があります。

「問題がある」という主観的な判断だけでは、解雇は認められません。解雇権濫用法理の場合、労働者保護の見地から、解雇権を行使する使用者側に主張立証責任が転換されており、会社が客観的合理的理由と社会通念上の相当性の証拠をしっかり示せない限り、解雇無効=労働者勝訴となります。

また、手続面では、労働基準法第20条により、労働者を解雇するにあたり、30日前の解雇予告の実施または30日分の解雇予告手当の支払いが義務付けられています。第20条はあくまで「予告期間または手当の有無」に関する手続き規定であり、解雇そのものの有効性(理由の妥当性)については直接規定していません。つまり、30日前に予告さえすれば解雇できるというわけではなく、解雇の実質的な理由の正当性も別途問われます。

解雇前に必ずやるべき「段階的対応」のステップ

ステップ1:口頭での注意・指導と記録の作成

解雇に向けて最も重要な準備は、段階的な指導の積み重ねと記録の保存です。

裁判所では、従業員に対して注意や指導を行ったが改善されなかったということを重視するため、注意や指導を行わずに解雇する場合、解雇が無効と判断される可能性が極めて高くなります。万が一、解雇手続きが必要となった場合は、裁判手続きを想定して、従業員に対する必要な注意や指導を行う必要があります。

能力不足や職務怠慢、不良行為などの事由に対して、まずは注意指導を行います。先に行うべきは口頭での注意指導です。その際、「○○について口頭で指導した」という指導内容や労働者の反応・発言を正確に記録に残すことが、適切なプロセスを経ていることの証拠になります。口頭ではなくメールやチャットツールを活用することも有効です。

ステップ2:書面による指導書・改善命令書の交付

口頭指導で改善が見られない場合は、書面での指導に移行します。指導書には「いつ・どこで・誰が・何をしたか」を具体的に記載することが不可欠です。

「勤務態度に問題がある」という曖昧な表現ではなく、「2024年7月12日午前10時、会議中に上司からの業務指示を無視し、『関係ないのでやりません』と発言」というように記録することで、本人に自覚を促すとともに、後日法的トラブルになった際にも証拠性が高まります。

多くの現場では、口頭での注意だけで済ませてしまい、後になって「言った、言わない」の水掛け論になるケースが後を絶ちません。日本の労働裁判において、会社側が解雇の正当性を主張するためには、十分な「解雇回避努力」を行ったことの立証責任があり、指導記録などの書証がない場合、裁判所は「指導の事実はなかった」と判断する傾向があります。

指導書を作成したら、必ず本人に署名・受領確認をしてもらいましょう。拒否する場合は、その事実も記録として残しておきます。

ステップ3:配置転換・降格など解雇回避の努力

降格や配置換えをせずに解雇に進むと、不当解雇と判断される理由になりますので、注意が必要です。裁判所は、会社が解雇以外の手段を尽くしたかどうかを厳しくチェックします。

具体的には、次のような「解雇回避努力」を記録とともに行うことが重要です。

  • 業務内容・職種・勤務場所の変更(配置転換)
  • 研修・OJTによる能力向上の機会提供
  • 降格による職責の軽減
  • 改善目標と期限を明示した業務改善指導計画(PIP)の実施

これらの取り組みを経てもなお改善が見られない場合に、はじめて解雇が現実的な選択肢となります。顧問弁護士に事前に相談することで、どのタイミングでどの手段を取るべきか、法的に安全な手順を組み立てることができます。

不当解雇になった場合の法的リスク|経営者が知っておくべき現実

解雇無効となった場合に会社が負うリスク

解雇が「不当解雇」と判断された場合、会社が直面するリスクは非常に深刻です。

解雇が法的に認められない「不当解雇」であると判断された場合、労働者は解雇されたことにならず、従業員としての地位を維持することができます。実際に、労働審判や訴訟などの裁判手続きで不当解雇を争い、解雇が無効であるという判断を勝ち取ることができれば、労働者は元の職場に復帰することができます。

さらに深刻なのが「バックペイ(未払い賃金の遡及払い)」のリスクです。解雇が無効ということになると、会社側は労働者の復職を認める義務とともに、その間の賃金を全額支払う義務があります。会社としては、働いてもらってもいない、しかも辞めさせたい人間に給料を1年分など支払わなければならなくなるため、解雇を争うことは経済的にも心情的にもかなりのリスクがあります。

労働審判での解決金について、調査結果によると、労働審判における解決金額の平均値は約285万円、中央値は150万円です。中小企業にとって、これは決して小さくない金額です。

懲戒解雇の場合はさらに慎重な対応が必要

懲戒解雇を行うには、懲戒解雇の要件などを就業規則で明確に定め、会社はそれに従って処分を下す必要があります。就業規則に規定がない場合、たとえ規律違反があったとしても懲戒解雇を行うことはできません。また、懲戒解雇が法的に有効と認められるためには、客観的に合理的な理由があり、その処分が社会通念上相当である必要があります。

懲戒解雇の有効性については、①就業規則に懲戒事由と処分の内容が明記されていること、②就業規則を労働基準監督署に届け出済みであること、③従業員に周知されていること(社内掲示や社内ネットなど)という条件をすべて満たす必要があります。就業規則が未整備または周知不足だと、処分自体が認められず、企業の対応が不当と判断される可能性があります。

また、従業員の行為がそれほど悪質でない場合や、従業員に対して十分な改善指導を行わなかった場合には、懲戒解雇が解雇権の濫用に当たると判断されやすいため、要注意です。「悪いことをしたのだから即懲戒解雇」という判断は、非常に危険です。

問題社員対応で会社を守るための実務的なポイント

就業規則の整備が「会社を守る盾」になる

問題社員への対応において、就業規則の整備は欠かせない前提条件です。就業規則に解雇事由・懲戒事由が明確に規定されていなければ、いかなる処分も法的に無効となるリスクがあります。

就業規則で整備しておくべき主な項目は以下のとおりです。

  • 普通解雇事由の具体的な列挙(勤怠不良、能力不足、業務命令違反など)
  • 懲戒処分の種類と対象行為の明記(戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇など)
  • 退職・解雇に関する手続き規定
  • ハラスメント防止規定と懲戒処分との連動

なお、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項を就業規則に記載し、行政官庁に届け出なければならない(労働基準法第89条)とされています。10人未満の事業所も、就業規則の作成・整備は強く推奨されます。

解雇に頼らない「出口戦略」も検討する

問題社員への対応として、必ずしも解雇だけが選択肢ではありません。実務上は、次のような選択肢も有効です。

  • 退職勧奨:会社から退職を促す話し合い。合意退職は後のトラブルリスクが低い
  • 降格・減給:職責に見合った処遇への変更(就業規則の規定が必要)
  • 配置転換:職場環境を変えることで問題行動が改善するケースもある
  • 段階的懲戒処分:戒告→減給→出勤停止→懲戒解雇という段階を踏む

退職勧奨は違法ではありませんが、あまりに執拗に行うと「強要」として問題になります。何回・どのような内容で話し合いを行ったかを記録しておくことが重要です。こうした対応を安全に進めるためにも、顧問弁護士への事前相談が非常に有効です。弁護士が同席または関与する形で退職勧奨を行うことで、後のトラブルを大幅に予防できます。

おわりに

今回のコラムでは、問題社員への対応と解雇の法的リスクについて解説しました。重要なポイントを整理します。

  • 日本では解雇権濫用法理(労働契約法第16条)により、解雇には客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要
  • 解雇前に「口頭指導→書面指導→解雇回避努力」という段階的対応と記録の積み重ねが不可欠
  • 懲戒解雇は就業規則の整備・周知・手続きの正当性がすべて揃っていなければ無効になる
  • 不当解雇と判断された場合、バックペイや解決金(平均約285万円)など多大なコストが生じる
  • 解雇だけでなく、退職勧奨・降格・配置転換など複数の選択肢を検討することが重要
  • 問題社員への対応は早期に弁護士に相談し、記録作成・手順設計から法的サポートを受けることが最大のリスク回避策

問題社員への対応は、感情的に動くと必ず後悔します。法律の枠組みをしっかり理解した上で、証拠を積み上げながら段階的に対応することが、会社を守る唯一の正攻法です。「もしかして問題社員がいるかも」と気づいた時点で、早めに専門家に相談することが最善の一手です。

当事務所では、北海道・札幌の中小企業向けに、顧問弁護士サービスを提供しています。契約書のチェックや労務問題、取引先とのトラブル対応など、日常的な法律相談から紛争解決まで幅広くサポートいたします。

簗田真也

弁護士法人やなだ総合法律事務所、代表弁護士。札幌弁護士会所属。スタートアップ・ベンチャー法務、不動産法務、M&A、事業再建・会社清算、国際取引法務を得意とする。弁護士・司法書士・行政書士のトリプルライセンスホルダーでもある。

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