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一般企業法務

第23回企業法務コラム フリーランスへの業務委託と下請法の関係

「フリーランスのデザイナーさんに制作物を頼んでいるけど、下請法って関係あるの?」「以前から付き合いのあるフリーランスのエンジニアに仕事を発注しているが、何か法律的なルールがあるって聞いて不安になってきた」——そんなお声を、経営者の方々からよくいただきます。特に近年、人手不足対策やコスト最適化の観点から、正社員採用だけでなく、フリーランスへの業務委託を活用する中小企業が増えています。札幌・北海道においても、ITエンジニア、デザイナー、ライター、コンサルタントなど多様な分野のフリーランスを活用する経営者が増えてきました。

しかし、フリーランスへの発注は「個人相手だから契約書は口頭で大丈夫」「報酬は後から決めればいい」と、社員採用とは異なる感覚で気軽に進められてしまうことがあります。そこに大きな落とし穴があります。フリーランスへの業務委託には、下請法(下請代金支払遅延等防止法)が適用される場合があり、違反すれば公正取引委員会から勧告・公表処分を受けるリスクがあります。

さらに、2024年11月1日には「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(通称:フリーランス新法)が施行され、これまで下請法の対象外だった事業者にも新たな義務が課されるようになりました。加えて、下請法は2026年1月1日に「中小受託取引適正化法(取適法)」として大幅に改正・施行されており、対象範囲はさらに広がっています。「自分には関係ない」と思っていた経営者が、気づかないうちに法律違反をしている、というケースも出てきています。

今回のコラムでは、フリーランスへの業務委託に関して、下請法(取適法)とフリーランス新法がどのように適用されるか、経営者として何を守らなければならないか、そして違反した場合のリスクについて、わかりやすく解説します。

下請法(取適法)とは何か?フリーランス発注との関係

下請法の目的と基本的な仕組み

下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、1956年に制定された法律で、資本力に差のある事業者間における不公正な取引を防ぐことを目的としています。発注する側(親事業者)が受注する側(下請事業者)に対して、優越的な立場を利用した不当な行為を規制するものです。

下請法の対象となる取引は、事業者の資本金規模と取引の内容で定義されています(第2条第1項〜第8項)。具体的には、以下の4つの取引類型が対象となります(2026年1月の改正後は「特定運送委託」も追加)。

  • ① 製造委託(物品の製造を委託する取引)
  • ② 修理委託(物品の修理を委託する取引)
  • ③ 情報成果物作成委託(ソフトウェア・デザイン・コンテンツ等の作成を委託する取引)
  • ④ 役務提供委託(サービスの提供を委託する取引)

フリーランスへの業務委託でよく見られるWebサイト制作、ロゴデザイン、システム開発、ライティングなどは、③情報成果物作成委託に該当する可能性があります。また、清掃・警備・コールセンター業務などは④役務提供委託に当たる場合があります。

中小企業にも適用される!資本金基準と2026年改正の従業員基準

「うちは中小企業だから、下請法の親事業者にはならないだろう」と思っていませんか?実はそうとは限りません。

下請法では、適用される親事業者と下請事業者の資本金額の基準が、取引の内容に応じて異なります。物品の製造・修理、プログラム等の情報成果物の作成、運送・物品の管理・情報処理に係る役務提供については、資本金「3億円超」対「3億円以下」、または「3億円以下1千万円超」対「1千万円以下」の各事業者間の取引が対象です。その他の情報成果物の作成や役務の提供については、資本金「5千万円超」対「5千万円以下」、または「5千万円以下1千万円超」対「1千万円以下」の各事業者間の取引が対象となります。

つまり、資本金1,000万円超の会社がフリーランス(個人=資本金なし)に仕事を発注すれば、取引内容によっては下請法の対象になるのです。「うちは資本金3,000万円だから関係ない」ではなく、発注先のフリーランスとの資本金差が基準を満たしていれば親事業者として規制を受けます。

さらに、2025年5月16日に国会で下請法等の改正法が成立し、同月23日に公布されました。改正法は2026年1月1日から施行されています。今回の改正では「下請」等の用語の見直しや、価格据置取引への対応、手形払等の禁止、運送委託の対象取引への追加、従業員基準の追加、面的執行の強化などが行われました。

これまでの資本金基準に加え、従業員数による基準が新たに追加され、委託事業者・中小受託事業者が資本金基準または従業員基準のいずれかの基準を満たす場合、取適法の適用対象となります。これにより、これまで下請法の対象外だった企業が、新たな基準によって規制対象となるケースも生じていますので、自社の状況を早急に確認することが必要です。

フリーランス新法とは何か?下請法との違いと発注者の義務

フリーランス新法の概要と保護対象

働き方の多様化が進む現代において、フリーランスとして活躍する人々が増えています。その一方で、発注者との力関係の不均衡から、不利な取引条件を強いられたり、報酬の支払いが遅延したりといったトラブルも少なくありませんでした。こうした背景を踏まえ、フリーランスがより安心して働ける環境を整備するため、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称「フリーランス新法」が制定されました。

フリーランス新法では、フリーランスを「特定受託事業者」と称しています。特定受託事業者に該当するのは、「業務委託で仕事を受けている」「従業員がいない」という条件を満たす事業者です。個人事業主はもちろん、一人社長(従業員なし)、副業でフリーランス活動をしている方も保護対象になります。

下請法との最大の違いは適用範囲の広さです。下請法は、フリーランスへ業務を委託するクライアントが資本金1,000万円以上の場合にのみ適用されます。一方、フリーランス新法はクライアントの資本金に対する制限がありません。そのため、フリーランス新法では、より多くのフリーランスが保護対象になります。つまり、個人事業主や資本金1,000万円未満の小規模企業がフリーランスに発注する場合でも、フリーランス新法は適用されるのです。

発注者に課される6つの主な義務

全ての企業に適用される義務は、書面等による「取引条件の明示」です。フリーランスへ業務を委託するときは、直ちに書面またはメールやSNSなどの電磁的方法で取引条件を明示することとなっています。口頭による明示では満たされません。

発注者が守るべき主な義務をまとめると以下のとおりです。

  • ① 取引条件の明示(書面・電磁的方法):業務内容、報酬額、支払期日などを書面またはメール等で明示する(全発注者に義務)
  • ② 報酬の支払期日の設定と遵守:成果物の納品後、60日以内の可能な限り短い期間内に支払いを行うことが義務化されています。
  • ③ 禁止行為の遵守:業務委託期間が1か月を超える場合、発注事業者の一方的な都合でフリーランスが不利益を受けないよう、さまざまな行為が禁止されています。報酬の不当な減額、受領拒否、返品なども禁止されます。
  • ④ 中途解除の予告:継続的な業務委託を解除する場合、原則として30日前までに予告することが必要です。
  • ⑤ ハラスメント対策の体制整備:ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられており、就業規則への規定等の措置の実施が必要です。
  • ⑥ 募集情報の正確な表示:フリーランスを募集する広告等において、虚偽または誤解を招く表示をしてはなりません。

なお、フリーランス新法と下請法の両方に違反する場合は、原則としてフリーランス新法が優先して適用されます。ただし、下請法(取適法)も並行して守るべき義務があるため、どちらの法律も確認しておく必要があります。

下請法・フリーランス新法に違反した場合のリスク

行政処分・罰則・社会的信用の喪失

「違反しても大きな罰則はないだろう」と思っている経営者の方もいらっしゃいますが、実際には相当なリスクがあります。

まず、下請法(取適法)の違反については、公正取引委員会による立入検査、勧告、排除措置命令、課徴金納付命令、違反事実の公表、さらには法人及び個人に対する罰則の規定が適用される可能性があります。また、禁止行為には50万円の罰金が科される可能性があり、違反した企業は企業名が公表され、マスメディア等で報道される場合があります。

次に、フリーランス新法の違反については、違反が疑われる場合、まず行政(公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣)による指導や助言、是正勧告が行われます。それでも必要な措置がなされない場合は、命令や企業名の公表があり、命令に従わないなどの悪質な場合は50万円以下の罰金が科されます。

企業にとって本当に痛いのは50万円の罰金額そのものより、勧告・公表段階で社名が出ることによる信用毀損です。フリーランスとの取引はSNSや口コミで広がりやすく、「あの会社はフリーランスに厳しい」という評判が立つと、今後の外注先確保そのものが難しくなります。

よくある違反パターン——気づかずにやってしまいがちな行為

違反といっても、悪意のある行為だけではありません。「慣例でやっていた」「相手も了解していると思っていた」という認識ミスで違反してしまうケースが多くあります。代表的なパターンを挙げます。

  • 発注書(3条書面・取引条件明示)を交付していない:「いつものことだから口頭でOK」は通じません。毎回、書面またはメール等で条件を明示する必要があります。
  • 報酬を後から一方的に減額する:「クオリティが低かったから」「予算が足りなくなったから」という理由での減額は禁止行為に該当する可能性があります。
  • 60日を超えて報酬を支払っている:「翌々月末払いが社内ルール」という場合でも、納品後60日を超える支払いはフリーランス新法違反になり得ます。
  • 成果物を理由なく受け取らない・返品する:下請事業者に責任がないのに、発注した物品等の受領後に不当に返品することは禁止されています。
  • 一方的な契約解除を予告なく行う:継続的な業務委託を突然打ち切ることは、フリーランス新法の中途解除予告義務違反となる可能性があります。

下請事業者の了解を得ていても、または違法性の意識がなくても、これらの規定に触れるときには法律に違反することになるので十分注意が必要です。「知らなかった」では済まされません。

中小企業がすべき具体的な対応策

まずやるべき3つのチェックポイント

では、実際に経営者・管理職として何から手をつければよいのでしょうか。まず以下の3点を確認してください。

  • ① 下請法(取適法)・フリーランス新法の適用有無の確認:自社の資本金・従業員数、取引内容(情報成果物か役務提供か等)、取引相手(フリーランスか法人か、従業員の有無)を整理し、どの法律が適用されるかを把握します。
  • ② 発注書(取引条件明示書)の整備:発注に際して、直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日等の所定の事項を記載した書面(「3条書面」)を受注者に交付する義務があります。電子メールやクラウドサービスを活用したペーパーレス対応も可能ですが、正しい手順が必要です。
  • ③ 支払フロー・支払期日の見直し:フリーランスへの報酬は、納品後60日以内に支払える体制を整えます。社内の請求書処理フロー・支払承認フローを見直し、締め日・支払日の設定を確認しましょう。

契約書・社内ルール整備のポイント

フリーランスとの取引を安全に進めるためには、適切な業務委託契約書の整備が欠かせません。契約書には以下の項目を盛り込むことが重要です。

  • 業務の内容・範囲(成果物の仕様・要件を具体的に)
  • 報酬の金額・支払方法・支払期日(60日以内を明記)
  • 業務委託期間・更新条件
  • 契約解除・中途解除の手続き(30日前予告を明記)
  • 知的財産権の帰属(著作権の取り扱い)
  • 秘密保持義務・情報管理に関する条項

また、社内のハラスメント防止規程に、フリーランスを含む業務委託先への対応を明記することも必要です。顧問弁護士がいれば、フリーランス新法と下請法(取適法)の両法に適合した書面ひな型を準備するなど、実務対応を一括してサポートすることが可能です。自社でゼロから作成するのは難しいため、弁護士によるリーガルチェックを活用することをお勧めします。

さらに、既存のフリーランスとの継続的な契約についても見直しが必要です。業務委託は契約更新によって取引関係が継続していくこともあるところ、施行日後に契約が更新される場合には新たな通知義務が生じます。自動更新の条項がある場合も同様であるため、発注者は契約内容を確認することが必要です。

なお、今回の改正(取適法)は約50年ぶりの大きな法改正となりますので、違反事例として公正取引委員会から勧告などを受けると、大きく報道される可能性が高く、企業イメージが損なわれることはもちろん、売上減少、取引先の離反など、大きなリスクがあります。早めの対応が、企業の信頼性を守るカギとなります。

おわりに

フリーランスへの業務委託は、人材の柔軟な活用という点で中小企業にとって有効な手段です。しかし、「個人相手だから気軽に」という感覚のまま進めていると、下請法(取適法)やフリーランス新法に違反し、公正取引委員会からの勧告・企業名公表・罰金といった重大なリスクにさらされる可能性があります。ポイントを改めて整理します。

  • 下請法(2026年1月より「取適法」)は、資本金・従業員規模と取引の内容に応じて中小企業にも適用される。
  • フリーランス新法(2024年11月施行)は、資本金規模を問わずすべての発注者に適用される。
  • 発注者には、取引条件の書面明示・60日以内の報酬支払・禁止行為の遵守・ハラスメント対策などの義務がある。
  • 違反した場合、勧告・企業名公表・50万円以下の罰金のリスクがある。
  • 業務委託契約書の整備・社内フローの見直しが急務。既存契約も要確認。

「自分の会社に当てはまるかどうか分からない」「契約書を見直したいが何から手をつけていいか分からない」という方こそ、顧問弁護士に相談することで、自社の取引状況を整理し、法律に沿った対応を早期に整えることができます。法改正への対応は、問題が起きてからではなく、事前に手を打つことが最大のリスク管理です。

当事務所では、北海道・札幌の中小企業向けに、顧問弁護士サービスを提供しています。契約書のチェックや労務問題、取引先とのトラブル対応など、日常的な法律相談から紛争解決まで幅広くサポートいたします。初回相談は無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

簗田真也

弁護士法人やなだ総合法律事務所、代表弁護士。札幌弁護士会所属。スタートアップ・ベンチャー法務、不動産法務、M&A、事業再建・会社清算、国際取引法務を得意とする。弁護士・司法書士・行政書士のトリプルライセンスホルダーでもある。

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