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一般企業法務

第17回企業法務コラム 就業規則の作成・変更における法的注意点

「従業員が10人を超えたから、そろそろ就業規則を作らないといけないとは思うけど、何から始めればいいか分からない」「顧問税理士に言われて就業規則を作ったけど、法改正に対応できているか不安」――こうしたお悩みを抱える北海道・札幌の中小企業経営者の方は少なくありません。

就業規則は、単なる書類ではなく、会社と従業員の関係を定める重要な「ルールブック」です。法律で定められた義務を守るだけでなく、労務トラブルの防止や働きやすい職場環境の整備にも直結します。しかし、作成義務があることは知っていても、具体的にどのような内容を記載すべきか、変更時の手続きはどうすればいいのか、不利益な変更は可能なのかなど、実務上の疑問は尽きません。

また、2025年4月には育児・介護休業法の改正が施行され、就業規則の見直しが必要となるなど、法改正への対応も経営者にとって大きな負担となっています。就業規則の不備が原因で、従業員とのトラブルに発展したり、労働基準監督署から是正勧告を受けたりするケースも増えています。

今回のコラムでは、就業規則の作成・変更における法的義務、記載すべき事項、変更時の注意点、そして違反した場合のリスクについて、労働基準法の条文と最新の法改正を踏まえて詳しく解説します。

就業規則とは何か――なぜ作成が義務付けられているのか

就業規則の定義と役割

就業規則とは、労働者の賃金や労働時間、退職などの労働条件に関する事項や、職場での規律について定めた規則のことです。会社における「憲法」のようなもので、従業員が働く上でのルールを明文化したものといえます。

就業規則には、本則である「就業規則」だけでなく、「賃金規程」「退職金規程」「育児介護休業規程」なども含まれます。これらはすべて就業規則の一部を構成するため、作成・届出の対象となります。

労働者と企業がこの「就業規則」を守ることで、労働者が安心して働ける環境を整えられます。また、賃金や労働時間などに関しても、「言った言わない」「聞いてない」など、労使間の不要なトラブルを防止することも可能です。

常時10人以上の事業場には作成・届出義務がある

労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成と届出が義務付けられています。ここでいう「常時10人以上」とは、日常的に10名以上の労働者がその事業場に在籍している状態を指します。一時的な増減は考慮せず、年間を通じて概ね10人以上であれば常時該当すると解されています。

重要なのは、正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員もすべてカウントに含まれる点です。派遣労働者は派遣元の事業所でカウントするため、自社の労働者に含めません。また、就業規則の作成義務は「事業場ごと」にあるため、複数の支店や営業所、工場などを構えている場合は各拠点で対応が必要です。

北海道・札幌の中小企業では、本社と支店を合わせると10人を超えるものの、各事業所単位では10人未満というケースもあります。その場合、法律上は作成義務がありませんが、同一企業であれば、同一のルールで運用したほうが、会社全体として最適な運営が可能となりますので、作成しておくことが推奨されます。

就業規則に記載すべき事項――何を書く必要があるのか

絶対的必要記載事項

就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」があります。労働基準法第89条では、以下の3つが定められています。

  • 労働時間に関する事項:始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換に関する事項
  • 賃金に関する事項:賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項:解雇の事由を含む退職に関する事項

絶対的必要記載事項は漏れなく規定し、特に「昇給」や「解雇事由」など見落としがちな項目も確実に記載しましょう。これらを欠いた就業規則は、労働基準法第120条の規定により、三十万円以下の罰金に処されます。

相対的必要記載事項

会社で制度を設けている場合に記載が必要となるのが「相対的必要記載事項」です。以下のような事項が該当します。

  • 退職手当の適用範囲、計算方法、支払時期
  • 賞与、臨時の手当
  • 安全衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償、業務外の傷病扶助
  • 表彰及び制裁の種類と程度

特に懲戒処分に関する規定は重要です。使用者が労働者を懲戒するには、就業規則であらかじめ、懲戒の種別と事由を定めておくことを要するとされているため、懲戒処分を行う可能性がある場合は、必ず就業規則に記載しておく必要があります。

就業規則の作成・届出手続き――どう進めればいいのか

従業員代表からの意見聴取が必須

労働基準法第90条では、使用者は就業規則を作成するにあたり、労働者を代表する者の意見を聴取することが義務づけられています。労働者代表とは、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労組、ない場合は従業員の過半数を代表する者(過半数代表者)から意見聴取を行い、その意見書を就業規則とともに労基署へ提出しなければなりません。

注意すべきは、この意見はあくまで「聴取」義務であり同意までは要求されていない点です。労働者代表が反対意見を述べても、企業は就業規則を届け出・施行すること自体は可能です。ただし、意見聴取を怠ると届出手続きが完了しませんので、必ず適法に選出された代表者から意見をもらうようにしましょう。

労働基準法施行規則第六条により、使用者(事業主)の意向に基づいて選出された者や、監督または管理の地位にある者が代表者となることは禁じられています。投票や挙手などの民主的方法で選出することが求められます。

労働基準監督署への届出

就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する企業に、労働基準法上の作成義務が課されている書類です。また、作成後に所轄労働基準監督署へ届け出ることも義務付けられています。届出義務は変更時にも同様に課せられているため、就業規則を変更する都度、労働基準監督署へ届け出なければなりません。

届出に必要な書類は以下の3点です。

  • 就業規則本体(2部:提出用と控え用)
  • 従業員代表の意見書
  • 就業規則(変更)届

届出は、管轄の労働基準監督署に直接持参するか、郵送、またはe-Gov電子申請でも可能です。札幌市内の中小企業であれば、札幌中央労働基準監督署または札幌東労働基準監督署が管轄となるケースが多いでしょう。

従業員への周知義務

労働基準法第106条において、使用者は、作成した「就業規則」を労働者に周知させる義務があるとされています。周知されていない就業規則は、届出をしていても効力を持ちません

就業規則が法的規範としての拘束力を生ずるためには、その内容が適用される事業場の労働者への周知手続が採られていることを要すると判例でも示されています。周知の方法としては、以下のような方法があります。

  • 常時各作業場の見やすい場所へ掲示する
  • 書面を労働者に交付する
  • 社内のイントラネットに掲載し、従業員が自由にアクセスできるようにする

近年では、クラウドストレージに保管して従業員がいつでも閲覧できる環境を整える企業も増えています。

就業規則の変更における注意点――不利益変更は可能か

就業規則の不利益変更とは

就業規則の変更のうち、従業員にとって不利益な内容に変更することを「不利益変更」といいます。例えば、賃金の減額、退職金の減額、休日の削減、労働時間の延長などが該当します。

労働契約法は、第9条において、就業規則の変更による労働条件の不利益変更は原則としてできないことを定めたうえで、第10条で例外として、変更が合理的なものである場合は、変更後の就業規則を周知することを条件に、就業規則の変更による労働条件の不利益変更を認めています。

不利益変更の合理性判断基準

最高裁は現在、次のような見解を示しています(第四銀行事件最2小判平成9年2月28日)。

「当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいう。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」。

合理性の判断にあたっては、以下の要素が総合的に考慮されます。

  • 労働者が被る不利益の程度
  • 使用者側の変更の必要性の内容・程度
  • 変更後の就業規則の内容自体の相当性
  • 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
  • 労働組合等との交渉の経緯
  • 他の労働組合又は他の従業員の対応
  • 同種事項に関する我が国社会における一般的状況

従業員の同意を得る方法

不利益変更を確実に行うには、個別の従業員から同意を得ることが最も安全です。ただし、最高裁判決平成28年2月19日は「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である」と判示しています。

つまり、形だけの同意書では無効とされる可能性があります。経営状況の説明や代償措置の提案など、丁寧な説明と真摯な交渉が不可欠です。顧問弁護士に相談しながら進めることで、法的リスクを最小限に抑えることができます。

最新の法改正への対応――2025年4月施行の育児・介護休業法改正

2025年4月の主な改正内容

2025年4月1日施行の育児介護休業法の改正点は、具体的には以下のようになります。

  • 対象が小学校入学前の子から小学校3年生終了時までとなり、対象が拡大。病気やケガ、予防接種等以外に感染症に伴う学級閉鎖等や入園(入学)式、卒園式でも取得が可能に(子の看護等休暇)
  • 対象労働者が、3歳未満の子を養育する労働者から小学校就学前の子を養育する労働者に拡大(所定外労働の制限)
  • 短時間勤務制度を利用できない業務の労働者への代替措置にテレワークが追加。3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが企業の努力義務となる

これらの改正に対応するため、就業規則の見直しが必要です。就業規則の変更は4月施行と10月施行の2回分必要となります。10月施行分を4月に前倒しして対応するのもありかと思います。

法改正対応は顧問弁護士のサポートが有効

法改正への対応は、単に条文を追加するだけでは不十分です。自社の実態に合わせた規定の整備、既存の規定との整合性の確認、従業員への説明など、多くの作業が必要となります。

顧問弁護士がいれば、法改正の情報を早期にキャッチし、適切なタイミングで就業規則の見直しを提案してもらえます。また、労働組合や従業員代表との交渉においても、法的な観点からのアドバイスを受けることができます。

違反した場合のリスク――罰則と実務上の影響

罰則規定

就業規則の作成・届出義務がある使用者が、その義務に違反した場合、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条1号)。また、労働条件や服務規律の実態が変更されたにもかかわらず、就業規則を変更しなかった場合、就業規則を変更しても届出を怠った場合も、同じく、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条1号)。

労働基準監督署の是正勧告

労働基準法違反があった場合、労働基準監督官は、会社に対する立ち入り検査(臨検)・帳簿などの書類の提出の要求・使用者もしくは労働者に対する尋問をさせることが可能です(労働基準法101条)。さらに、場合によっては労働基準監督署による公表が行われたり、ニュースなどの報道の対象になったりして、企業イメージを毀損する可能性もあるでしょう。

北海道・札幌の中小企業にとって、地域での評判は非常に重要です。労働基準法違反が明るみに出ることで、採用活動に悪影響が出たり、取引先からの信用を失ったりするリスクがあります。

労務トラブルの発生

就業規則が適切に整備されていない場合、以下のような労務トラブルが発生しやすくなります。

  • 解雇や懲戒処分を行った際に、「就業規則に規定がない」として無効とされる
  • 賃金や労働時間について「聞いていない」というトラブルが発生する
  • 退職金の支給基準が不明確で紛争になる
  • 育児・介護休業の申請があった際に、対応方法が定まっていない

こうしたトラブルは、顧問弁護士がいれば事前に防ぐことができます。就業規則の整備だけでなく、日常的な労務相談を通じて、トラブルの芽を早期に摘み取ることが可能です。

おわりに

就業規則の作成・変更は、単なる法律上の義務ではなく、会社を守り、従業員が安心して働ける環境を整えるための重要な取り組みです。労働基準法第89条に基づく作成義務、第90条に基づく従業員代表の意見聴取、第106条に基づく周知義務をしっかりと守ることが基本となります。

特に、就業規則の不利益変更については、労働契約法第10条の合理性要件を満たす必要があり、判例の蓄積を踏まえた慎重な対応が求められます。2025年4月施行の育児・介護休業法改正など、頻繁に行われる法改正にも適切に対応していく必要があります。

違反した場合は、労働基準法第120条による罰則だけでなく、労働基準監督署の是正勧告や企業イメージの毀損、労務トラブルの発生など、様々なリスクがあります。これらのリスクを回避し、適切な就業規則を整備・運用するためには、労働法に精通した専門家のサポートが不可欠です。

当事務所では、北海道・札幌の中小企業向けに、顧問弁護士サービスを提供しています。契約書のチェックや労務問題、取引先とのトラブル対応など、日常的な法律相談から紛争解決まで幅広くサポートいたします。初回相談は無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

簗田真也

弁護士法人やなだ総合法律事務所、代表弁護士。札幌弁護士会所属。スタートアップ・ベンチャー法務、不動産法務、M&A、事業再建・会社清算、国際取引法務を得意とする。弁護士・司法書士・行政書士のトリプルライセンスホルダーでもある。

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