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一般企業法務

第16回企業法務コラム 2026年1月施行「取適法」運送委託追加と価格協議義務化への実務対応

取引先との契約、本当に大丈夫ですか?

札幌市内で製造業を営むA社長は、先日こんな相談を受けました。「原材料費が高騰しているのに、取引先から『価格は据え置きで』と一方的に言われて困っています。でも、相手は大手企業だから強く言えなくて…」という下請業者からの悩みでした。一方で、A社長自身も運送会社に配送を委託する立場。「うちも委託側だから、何か気をつけないといけないことがあるのでは?」と不安を感じたそうです。

実は、2026年1月1日から、こうした企業間取引のルールが大きく変わりました。これまで「下請法」と呼ばれていた法律が、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称:取適法)として生まれ変わったのです。法律名だけでなく、内容も大幅に改正され、これまで規制の対象外だった企業や取引も、新たに法律の適用を受けるようになりました。

特に注目すべきは、運送委託が新たに対象に追加されたこと従業員数でも判断されるようになったこと、そして価格協議を拒否すると違反になることです。「うちは資本金が少ないから関係ない」と思っていた企業も、従業員数によっては対象になる可能性があります。違反すれば、公正取引委員会から勧告を受け、企業名が公表されるリスクもあります。

今回のコラムでは、2026年1月に施行された取適法について、中小企業経営者が最低限知っておくべきポイントを、わかりやすく解説します。

取適法とは何か?下請法からどう変わったのか

法律の名称と目的が変わった理由

2026年1月1日から施行される「取適法」では、従来の下請法から大きくルールが見直されます。まず法律の名称が、「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変更されました。略称は「中小受託取引適正化法」、通称「取適法(とりてきほう)」です。

「下請」という言葉には、委託側と受託側の上下関係を連想させる側面がありました。そのため、用語も見直され、「親事業者」は「委託事業者」に、「下請事業者」は「中小受託事業者」に、「下請代金」は「製造委託等代金」に変更されています。対等なパートナーシップを目指す姿勢が、法律名や用語にも反映されているのです。

この改正の背景には、近年、労務費や原材料費などのコストが急激に上昇している中、中小企業を始めとする事業者が賃上げの原資を確保し、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を目指すために、取引の適正化と価格転嫁の促進を図る法改正が行われましたという事情があります。

取適法の4つの重要改正ポイント

取適法の主な改正点は、以下の4つです。

  • 運送委託(特定運送委託)の追加:物流業界が新たに規制対象に
  • 従業員数基準の追加:資本金3億円以下でも従業員数で規制対象に
  • 価格協議義務化:協議拒否・先延ばし・無視が明確に違反行為に
  • 60日以内支払義務・手形払原則禁止:中小企業の資金繰り改善

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

【改正点①】運送委託が新たに対象に!物流業界への影響

「特定運送委託」とは何か

従来の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、新たに「特定運送委託」が追加されました。特定運送委託は、事業者が販売する物品や、製造や修理を請け負った物品などについて、その取引の相手方に対して運送する場合に、運送業務を他の事業者に委託する取引です。

具体的には、メーカーが自社製品を顧客に配送するために運送会社に委託する場合などが該当します。これまでは独占禁止法の枠組みにより規制されていましたが、無償で荷役・荷待ちをさせられている問題などを受け、取適法の対象に追加されるものです。

これまで「自社の商品を運んでもらうだけだから、下請法は関係ない」と考えていた企業も、2026年1月以降の運送委託については、取適法の規制を受ける可能性があります。

運送委託で注意すべき実務ポイント

運送委託が取適法の対象になったことで、以下の点に注意が必要です。

  • 契約書・発注書の交付義務:運送を委託する際、運賃や運送内容を記載した書面を交付する必要があります
  • 荷役作業の無償強要禁止:積み下ろし作業などを無償で行わせることは違反です
  • 荷待ち時間の対価支払:長時間の待機時間に対して対価を支払わないと違反になります
  • 60日以内の支払義務:運送完了日から60日以内に代金を支払う必要があります

北海道は広域で物流が重要な産業です。札幌の企業が道内各地への配送を委託する際も、これらのルールを守る必要があります。顧問弁護士がいれば、契約書のひな形作成や、運送委託のフロー見直しについて、事前にアドバイスを受けることができます。

【改正点②】従業員数基準の追加で対象企業が大幅拡大

資本金だけでなく従業員数でも判断される

これまでの資本金基準に加え、従業員基準(常時使用する従業員数300人(製造委託等の場合)又は100人(役務提供委託等の場合))が新たに追加されます。委託事業者・中小受託事業者が資本金基準又は従業員基準のいずれかの基準を満たす場合、取適法の適用対象となります。

従業員基準の具体的な内容は以下のとおりです。

  • 製造委託・修理委託・特定運送委託等:従業員300人超の企業が従業員300人以下の企業に委託する場合
  • 役務提供委託等(一部を除く):従業員100人超の企業が従業員100人以下の企業に委託する場合

「常時使用する従業員」には、正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイト、さらには1か月を超えて継続して使用される日雇い労働者も含まれます。ただし、派遣社員は派遣元に雇用されているため、派遣先ではカウントに含めません。

「うちは関係ない」と思っていた企業も要注意

これまで「資本金が3億円以下だから下請法は関係ない」と考えていた企業でも、従業員数が300人を超えていれば、取適法の委託事業者として義務を負うことになります。逆に、取引先の従業員数が基準以下であれば、その企業は中小受託事業者として保護されます。

実務的な対応としては、新規の取引先登録時に従業員数を申告してもらう仕組みを導入したり、既存の取引先に対しても年度更新時などに定期的な確認を行ったりすることが推奨されます。

顧問弁護士がいれば、自社が委託事業者に該当するか、取引先の従業員数をどのように確認・管理すべきかについて、継続的にサポートを受けることができます。

【改正点③】価格協議義務化:拒否・先延ばし・無視が違反に

「協議に応じない一方的な代金決定」が新たに禁止

取適法では、新たに「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」が追加されました。中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりして、一方的に代金を決定する行為が明確に違反行為として禁止されています。

これは、従来の「買いたたき」規制とは別の規定です。買いたたきは「著しく低い価格」を不当に設定する行為を禁止するものですが、市価の認定が困難な場合もありました。新たな規定は、交渉プロセスに着目し、適切な協議を行わないこと自体を違反としています。

どんな行為が違反になるのか

中小受託事業者からの協議の求めを明示的に拒む場合のほか、例えば、協議の求めを無視したり、協議の実施を繰り返し先延ばしにしたりして、協議の実施を困難にさせる場合も違反になります。

具体的には、以下のような行為が問題となります。

  • 原材料費の高騰を理由に価格引上げの協議を求められたのに、無視する
  • 「今は忙しいから」と何度も協議を先延ばしにし、結局据え置く
  • 価格引下げを要請する際、具体的な理由や根拠資料を示さない
  • 協議の場を設けても、一方的に「据え置き」を通告するだけ

なお、中小受託事業者から価格交渉の申出がない場合であっても、価格交渉の場において、明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くことには、取適法の運用基準において「問題となるおそれがある」との考え方を示しており、この考え方は、引き続き変わらないとされています。

社内ルール化が必須

価格協議の求めがあった場合、企業としては以下の対応が必要です。

  • 協議の場を設ける:真摯に話し合いの機会を持つ
  • 説明・資料提供:価格を据え置く場合も、業界平均などの根拠を示す
  • 記録を残す:協議の日時、内容、結論を記録に残す

顧問弁護士がいれば、価格協議のプロセスを社内ルール化し、違反リスクを事前に防ぐことができます。また、実際に協議を求められた際の対応方法についても、個別にアドバイスを受けることができます。

【改正点④】60日以内支払義務と手形払原則禁止

手形払が原則禁止に

発注した物品等の受領日から60日以内で定めた支払期日までに代金を支払わない行為。また、「手形の交付」や「電子記録債権や一括決済方式のうち、中小受託事業者が支払期日までに代金相当額の金銭と引き換え困難なもの」が禁止されることになりました。

これまでは、受領日から60日以内に手形を交付すれば問題ありませんでしたが、手形の満期日まで含めると、実際に中小企業が現金を受け取るまで120日以上かかるケースもありました。取適法では、支払期日(受領日から60日以内)までに、満額の現金を受け取れない支払方法は原則禁止となりました。

電子記録債権やファクタリングも条件次第で違反

手形払だけでなく、電子記録債権(でんさい)や一括決済方式についても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては禁止されています。

例えば、以下のような場合は違反になります。

  • 支払期日が受領日から60日後だが、電子記録債権の満期が90日後
  • ファクタリングで早期現金化する際、手数料を中小受託事業者が負担
  • 振込手数料を中小受託事業者に負担させる

なお、紙の約束手形・小切手は2027年3月末までに廃止される予定です。

支払サイトの見直しが急務

企業としては、以下の対応が必要です。

  • 支払方法の変更:手形払から現金振込への切替
  • 支払サイトの短縮:「月末締め翌々月末払い」は61日となり違反の可能性があるため、「月末締め翌月20日払い」などへの短縮が必要
  • 資金繰り計画の見直し:支払サイトの短縮は資金繰りに影響するため、金融機関との相談も必要

顧問弁護士がいれば、契約書の支払条項の見直しや、取引先への説明方法について、法的な観点からサポートを受けることができます。

違反した場合のリスクと罰則

勧告と企業名公表のリスク

取適法に違反した場合、公正取引委員会は、取適法に違反する委託事業者に対して是正勧告を行うことがあります。是正勧告を受けた場合、原則として事業者名と違反事実が公表されるので、社会的信用を大きく損なうおそれがあります。

また、中小受託事業者に対して製造等委託代金の支払期日を明示しないなど、必要な事項の明示を怠った場合は50万円以下の罰金に処されます。

遅延利息の支払義務

支払期日までに代金を支払わなかった場合、受領日から60日経過後から実際の支払日までの期間について、年率14.6%の遅延利息を支払う義務が発生します。減額を行った場合にも、減額した金額について遅延利息の支払義務が発生します。

面的執行の強化

取適法では、公正取引委員会や中小企業庁だけでなく、事業所管省庁の主務大臣にも指導・助言権限が付与されました。複数の省庁が連携して違反行為に対応する「面的執行」が強化されています。

中小企業が今すぐ取るべき実務対応

委託事業者(発注側)がすべきこと

発注側の企業は、以下の対応を早急に行う必要があります。

  • 適用対象の確認:自社の従業員数と取引先の従業員数・資本金を確認し、取適法の対象かを判断
  • 契約書・発注書の見直し:「下請事業者」などの旧用語を「中小受託事業者」に変更、支払条件の確認
  • 3条書面の記載事項確認:委託内容、代金額、支払期日など必要事項が記載されているか確認
  • 価格協議プロセスの社内ルール化:協議の求めがあった場合の対応フローを整備
  • 支払方法の変更:手形払から現金振込への切替、支払サイトの短縮
  • 運送委託フローの見直し:運送委託についても書面交付義務があることを周知

中小受託事業者(受注側)ができること

受注側の企業も、自らの権利を理解し、適切に行使することが重要です。

  • 書面交付の要求:口頭での発注だけでなく、書面での明示を求める
  • 価格協議の申し入れ:コスト上昇があれば、遠慮せず価格協議を求める
  • 違反行為の相談:公正取引委員会の相談窓口(フリーダイヤル:0120-060-110)に相談する

顧問弁護士がいれば、価格協議の申し入れ方法や、違反行為への対応について、法的な観点からアドバイスを受けることができます。

おわりに

2026年1月に施行された取適法は、中小企業の取引環境を大きく変える法改正です。運送委託の追加、従業員数基準の導入、価格協議義務化、手形払原則禁止など、実務に直結する重要な変更が盛り込まれています。

「自社は関係ない」と思っていた企業も、従業員数や取引内容によっては、新たに規制対象になる可能性があります。違反すれば、勧告を受け、企業名が公表されるリスクもあります。逆に、中小受託事業者にとっては、適正な価格転嫁を実現し、資金繰りを改善するチャンスでもあります。

契約書の見直し、価格協議プロセスの整備、支払条件の変更など、対応すべき事項は多岐にわたります。早めに専門家のアドバイスを受け、適切に対応することが重要です。

当事務所では、北海道・札幌の中小企業向けに、顧問弁護士サービスを提供しています。契約書のチェックや労務問題、取引先とのトラブル対応など、日常的な法律相談から紛争解決まで幅広くサポートいたします。初回相談は無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

簗田真也

弁護士法人やなだ総合法律事務所、代表弁護士。札幌弁護士会所属。スタートアップ・ベンチャー法務、不動産法務、M&A、事業再建・会社清算、国際取引法務を得意とする。弁護士・司法書士・行政書士のトリプルライセンスホルダーでもある。

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