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一般企業法務

第4回企業法務コラム コンプライアンスとガバナンスの違いとは?企業が誤解しがちな「法令遵守」の本質を考える

コンプライアンス=「守る」だけでは足りない

企業の社会的責任が強く問われる今、「コンプライアンス」という言葉はすっかり日常語になりました。しかし、その実態を見ると「法令さえ守っていれば問題ない」と考える企業は少なくありません。

実際の不祥事の多くは、法律そのものよりも、組織の意思決定や情報伝達の仕組みに起因しています。つまり、コンプライアンスの問題は単なる“法令違反”ではなく、“ガバナンス(統治)不全”として現れることが少なくないのです。

今回のコラムでは、コンプライアンスとガバナンスの違いと関係を整理し、両者を機能させるために企業が取るべき実践的な視点を解説します。

コンプライアンスとは

コンプライアンス(compliance)は、一般に「法令遵守」と訳されますが、近年ではその範囲が広がっています。法令だけでなく、社内規程や社会的倫理、ステークホルダーの期待など、「社会的要請に適合する行動」まで含む概念として理解されるようになりました。

企業のコンプライアンスは次の三層構造で考えると分かりやすいでしょう。

1. 法令遵守の層:労働法・会社法・独禁法などの直接的遵守
2. 社内ルール遵守の層:社内規程、マニュアル、業務手順など
3. 倫理・価値観の層:社会的期待・企業理念・経営者の姿勢

特に3番目の層が軽視されると、形式的なルールはあっても、現場での実効性が失われます。「やってはいけないこと」を教えるだけでなく、「なぜ守るのか」「守ることで何を実現したいのか」を浸透させることが重要です。

ガバナンスとは何か

ガバナンス(governance)は「統治」「管理」を意味します。企業におけるガバナンスとは、組織を適切に導き、経営の健全性・透明性を確保する仕組みのことです。

コーポレートガバナンス・コードでは、株主をはじめとする利害関係者との関係の中で、経営者の行動を監督・牽制する枠組みの重要性が強調されています。取締役会や監査役、内部監査などはその機能の一部を担います。

つまり、ガバナンスは「経営の意思決定が公正かつ適正に行われているか」を担保するものであり、企業全体を統治する“枠組み”といえます。

これに対してコンプライアンスは、その枠組みの中で「どのように行動すべきか」を示す“運用の仕組み”です。

コンプライアンスとガバナンスの違いと関係性

両者はしばしば混同されますが、その役割には明確な違いがあります。

コンプライアンス:定められたルールを「守る」こと
ガバナンス:ルールを「定め、守らせる」ための仕組みを整えること

たとえば、コンプライアンス担当部署が内部通報制度を運用する一方で、ガバナンスはその制度自体が適正に機能しているかを監督・改善する立場にあります。このように、バナンスが上位概念であり、その中にコンプライアンスが位置づけられる構造が基本です。

両者が有機的に機能して初めて、企業は法令遵守だけでなく「信頼される経営」を実現できます。逆に、ガバナンスの仕組みが脆弱なままでは、どれほど詳細なコンプライアンス規程を作っても、形骸化するリスクがあります。

体制不備が招く典型的な問題

企業の不祥事の多くは、単なる「ルール違反」ではなく、組織構造や文化に起因するケースがほとんどです。典型的な問題として、以下のようなパターンが挙げられます。

経営層と現場の情報断絶:現場からのリスク報告が経営層に届かない構造
内部通報制度の形骸化:通報があっても十分な調査・是正が行われない
「ペーパーガバナンス」:規程や委員会は整備されているが、実際には機能していない
企業文化の問題:「数字を優先するあまり、遵法意識が後退する」風土

これらに共通するのは、「体制を整えたことで安心してしまう」点です。真に有効なガバナンス・コンプライアンス体制とは、整備後も継続的に運用・監督・改善のサイクルを回すことです。そして、そのプロセスを客観的に点検できる仕組みが求められます。

ガバナンスとコンプライアンスを機能させるために──顧問弁護士の活用

ガバナンスやコンプライアンスを実効的に運用するには、社内だけでは見落としやすい「第三者の視点」が不可欠です。ここで重要な役割を果たすのが、顧問弁護士です。

顧問弁護士は単なるトラブル対応のための存在ではありません。企業の内部事情を理解しながらも、独立した立場から次のような支援が可能です。

▪️法令リスクの早期発見と未然防止
▪️社内規程や内部統制の整備・見直し支援
▪️社員研修・コンプライアンス教育の実施
▪️内部通報対応や不正調査に関する助言
▪️経営判断に対するリーガルチェックと経営陣への助言

これにより、企業は「社内の論理」だけに偏らず、透明性・継続性・客観性をもったガバナンス運営を実現できます。特に中堅・中小企業では、法務部門を常設することが難しい場合も多く、顧問弁護士を「経営の伴走者」として位置づけることが、持続的成長の基盤になります。

おわりに〜信頼される企業文化を育てるために

コンプライアンスとガバナンスは、どちらか一方を整えればよいというものではありません。両者を有機的に結びつけ、「守る文化」を育てることこそが、企業の信頼を支える根幹です。

ルールを作るのも人、守るのも人です。経営層の明確なメッセージと、専門家の客観的な支援が組み合わさることで、初めて実効性ある体制が築かれます。

私たちは、法的な視点から貴社のガバナンス体制・コンプライアンス活動の構築と運用を継続的にサポートし、健全で持続可能な企業経営を実現するお手伝いをいたします。

簗田真也

弁護士法人やなだ総合法律事務所、代表弁護士。札幌弁護士会所属。スタートアップ・ベンチャー法務、不動産法務、M&A、事業再建・会社清算、国際取引法務を得意とする。弁護士・司法書士・行政書士のトリプルライセンスホルダーでもある。

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