企業の経営者や担当者にとって、「法務」というとどうしてもトラブル対応を連想しがちです。取引先との契約トラブル、従業員との労務問題、万が一の訴訟。困ったときに弁護士に相談する――そんなイメージではないでしょうか。
しかし、近年注目されている「予防法務」は、トラブルが起きる前に手を打つことを目的としています。裁判や紛争に発展したときの時間的・金銭的コスト、そして会社の信用低下のリスクを考えれば、事前の備えに力を入れる価値は大きいのです。
もっとも、「予防法務」と聞くと「守り」というイメージが強くなりがちです。しかし実際には、しっかりとした守りがあるからこそ、企業は安心して攻めの経営に挑むことができます。
本コラムでは、中小企業の経営者目線で、守りと攻めの両面から予防法務のメリットを解説します。
予防法務の基本は「守り」
中小企業にとって、トラブル対応のコストは非常に大きく感じられます。契約書の不備や口頭での約束の食い違いから発生する取引トラブル、労務規程が整っていないための従業員トラブル、コンプライアンス違反による行政指導――どれも経営にとって深刻な負担です。
たとえば、契約書の条項を確認せずに契約を結んでしまった場合、後から不利な条件に気づくことがあります。裁判になれば、時間も費用もかかります。あるいは、従業員との関係で問題が発生した場合、解決には精神的負担も伴います。こうした問題は、事前に弁護士のチェックや規程の整備を行うことで、多くは未然に防ぐことが可能です。
また、中小企業の場合、社会的信用の毀損は経営に直結します。不祥事や労務トラブルが表に出れば、取引先や金融機関の信頼を失い、新しい契約や資金調達に影響することも少なくありません。予防法務は、このようなリスクを抑える「守りの法務」として、特に中小企業にとって価値の高い取り組みなのです。
守りがあるから「攻め」ができる
では、守りだけしていれば安心なのでしょうか。実はそうではありません。しっかりとした守りがあるからこそ、経営者は自信を持って攻めの経営に挑めます。
契約交渉の場面を考えてみましょう。契約書が整備され、法的リスクが把握されている企業は、取引条件の交渉において堂々と主張できます。逆にリスクが不透明な状態では、どうしても受け身になり、取引先の条件に従わざるを得なくなることがあります。契約を「守り」としてだけでなく、「攻め」の武器として使えるかどうかは、予防法務の有無にかかっています。
知的財産も同様です。新しい商品やサービスを開発するとき、早期に商標や著作権を押さえておけば、競合が参入するのを防ぎ、市場での優位性を確保できます。後から権利取得を試みても、すでに先行者がいると制約を受けることになります。知財戦略はまさに、攻めの予防法務の一例です。
さらに、中小企業にとって意思決定のスピードは生き残りに直結します。新規事業や取引先開拓、海外展開に踏み切るとき、法的リスクが整理されていれば迅速に判断できます。リスクが見えている状態は、攻める経営の土台になるのです。
資金調達やM&Aの場面でも予防法務は力を発揮します。金融機関や投資家は、対象企業の法務リスクを厳しく確認します。日常から法務リスクを整理している企業は、信用を得やすく、より有利な条件で資金調達や取引を進められる可能性が高まります。
顧問弁護士と実現する「攻めと守りの両輪」
予防法務の重要性は理解できても、自社だけで完璧に整備するのは難しいのが現実です。法改正は頻繁にあり、判例も毎日のように積み重なります。これを経営者や担当者だけで追いかけるのは、時間的にも負担が大きすぎます。
そこで役立つのが、顧問弁護士です。顧問契約を結んでいれば、弁護士は会社の事情や事業モデルを理解したうえで、日常的に法務相談に応じることができます。単発のスポット対応とは違い、経営の伴走者として、守りと攻めの両輪を支える存在になれます。
顧問弁護士がいることで、経営者は安心してリスクを取れるようになります。新しい事業や取引に挑戦するとき、「法的にここは安全だ」「ここは注意が必要だ」という助言があれば、判断が早く正確になります。また、日常的に相談できる環境があるため、問題が小さいうちに解決でき、深刻化する前に手を打てます。
顧問弁護士は、まさに中小企業の経営者にとっての「転ばぬ先の杖」であり、「攻めを支える伴走者」でもあるのです。
おわりに
予防法務は、確かに「守り」の側面が強く見えます。しかし、その守りこそが、企業が安心して攻めの経営に挑むための土台となります。契約交渉や知的財産戦略、意思決定のスピード、資金調達やM&Aなど、攻めの場面での強みは、守りの法務があって初めて発揮されます。
顧問弁護士を活用すれば、守りと攻めの両立が可能になります。日常の法務相談から戦略的な助言まで、経営者の挑戦を後押しし、企業の成長を支えるパートナーとして力を発揮します。
中小企業にとって、予防法務は単なる保険ではありません。それは経営の安心感を生み、攻める力を強化する経営戦略の一部です。守りと攻めを両立させることで、会社はより強く、より柔軟に未来に挑戦できるのです。
当事務所では、まずは初回無料相談で企業の状況やお悩みを伺い、スポット相談と顧問契約、それぞれの特徴や向き不向きを丁寧にご説明しています。「契約書を一度見てもらいたい」といった小さなご相談も歓迎です。お気軽にご相談ください。