2026年4月に改正女性活躍推進法が施行されます。2016年の施行以降、同法は企業に対し、女性の職業生活における活躍推進を目的として、行動計画の策定や情報公表を義務づけてきました。しかし、制度開始から約10年が経過する中で、女性管理職比率の伸び悩みや男女間賃金格差の問題が依然として指摘され、制度の実効性を高める必要性が議論されてきました。
今回の改正は、単なる形式的な義務の見直しではなく、「見える化」と「実効性の強化」を軸に、企業の取り組みをより実質的なものへと転換させる内容となっています。今回のコラムでは、現行法の内容を確認しつつ、改正によって何がどのように変わるのかを整理したいと思います。
女性活躍推進法の基本
女性活躍推進法は、一定規模以上の企業に対し、自社の女性活躍状況を把握・分析したうえで、一般事業主行動計画を策定し、その内容を公表することを求めています。また、女性の活躍状況に関する情報を外部に公表する義務も課されています。
もっとも、義務の内容は企業規模によって異なります。ここを正確に理解することが、改正内容を把握する前提となります。
現行法では誰にどのような義務が課されているか
まず、常時雇用労働者101人以上の企業には、
▪️一般事業主行動計画の策定・届出・公表義務
▪️女性活躍に関する情報公表義務
が課されています。
さらに、常時雇用労働者301人以上の企業には、上記に加えて、
▪️男女間賃金差異の公表義務
が課されています。
一方、常時雇用労働者100人以下の企業については、行動計画の策定や情報公表はいずれも努力義務にとどまっています。
このように、現行法は「101人以上」と「301人以上」という二段階構造をとっており、とりわけ男女間賃金差異の公表は大企業に限定されている点が特徴です。
改正ポイント① 義務対象企業の範囲はどう変わるのか
改正の最大のポイントは、情報公表義務の対象範囲が拡大される点にあります。
2026年4月以降、これまで301人以上の企業に限定されていた男女間賃金差異の公表義務が、101人以上の企業まで拡大されます。つまり、101人以上300人以下の中堅企業も、賃金格差の公表義務を負うことになります。
他方で、100人以下の企業が直ちに法的義務を負うようになるわけではありません。引き続き努力義務の枠組みが維持されます。
したがって、改正の実質的影響を最も強く受けるのは、101人以上300人以下の企業です。これまで行動計画や一般的な情報公表は義務であったものの、賃金差異の開示までは求められていなかった企業層に、新たな法的義務が加わることになります。
改正ポイント② 情報公表義務はどう強化されるのか
現行法では、101人以上の企業は、複数の選択肢の中から一定項目を選んで情報公表を行う仕組みとなっています。そのため、公表内容にばらつきが生じ、企業間比較が困難であるとの指摘がありました。
また、男女間賃金差異の公表は301人以上企業に限定されていたため、中堅企業の状況は十分に可視化されていませんでした。
改正後は、男女間賃金差異の公表義務が101人以上企業に拡大されるほか、管理職に占める女性割合など、比較可能性の高い指標の明確化が進みます。これにより、公表情報はより具体的で横断的な分析が可能な内容へと変化します。
重要なのは、情報公表の意味合いが変わる点です。
従来は「公表しているかどうか」がコンプライアンスの焦点でした。しかし改正後は、「公表された数値の合理性」や「その背景説明」が問われることになります。公表データは採用市場や取引先、金融機関などに参照され、企業評価に直結します。
法的義務の履行という枠を超え、レピュテーションリスク管理の一環として捉える必要があります。
改正ポイント③ 行動計画の実効性はどう変わるのか
現行法では、101人以上企業は数値目標を含む行動計画を策定・公表する義務を負っています。ただし、目標設定の具体性や達成可能性については企業の裁量に委ねられる部分が大きく、形式的な計画でも直ちに問題視されるとは限りませんでした。
改正により情報公表が強化されることで、行動計画の実効性が事実上問われる構造になります。
例えば、男女間賃金差異や女性管理職比率が長期間改善していないにもかかわらず、計画内容が抽象的なままであれば、企業の姿勢に疑問が生じかねません。
改正後は、
▪️公表データ
▪️行動計画の数値目標
▪️実際の人事施策
の整合性が重視されます。
行動計画は単なる提出書類ではなく、対外的なコミットメントとして機能することになります。法令違反の有無だけでなく、説明責任を果たせるかどうかが実務上の重要論点となります。
改正が企業にもたらす実質的な意味
今回の改正を一言で表すなら、「見える化の徹底」といえます。義務対象は101人以上企業へと広がり、情報はより具体的に公表され、行動計画の実効性が間接的に検証される構造となります。
重要なのは、改正が罰則強化型の立法ではない点です。しかし、行政による勧告や公表措置が取られた場合の影響は決して小さくありません。また、公表情報を契機とした労務紛争や内部通報の可能性も無視できません。
改正法対応は、単なる法令遵守の問題にとどまらず、企業のガバナンスや人材戦略と密接に結びつくテーマとなっています。
おわりに
2026年4月施行の改正女性活躍推進法は、
▪️男女間賃金差異公表義務の101人以上企業への拡大
▪️情報公表項目の具体化・比較可能性の向上
▪️行動計画の実効性重視への転換
という三点を柱とする改正です。
100人以下企業が直ちに義務化されるわけではありませんが、101人以上企業にとっては実質的な負担増となります。
形式的な対応では足りない時代に入りつつあります。自社の現状を正確に把握し、公表データと行動計画の整合性を確保することが、今後の実務における重要課題となるでしょう。
女性活躍推進法は、もはや単なる労務コンプライアンスの問題ではなく、企業の人的資本戦略や開示戦略と直結するテーマです。改正法施行を契機に、自社の人事制度や評価制度、情報開示方針を総点検してみてはいかがでしょうか。
当事務所では、改正法対応のみならず、人的資本経営・ガバナンス強化の観点からの制度設計支援も行っています。貴社の状況に応じた実務的なアドバイスをご提供いたします。