2026年4月1日、育児・介護休業法の改正が施行されます。
今回の改正は、一見すると「これまでの制度を少し広げたもの」にも見えます。しかし実際には、企業に求められる対応のレベルを一段引き上げる内容となっており、対応の仕方によっては、労務トラブルや企業評価にまで影響が及ぶ可能性があります。
特に注意すべきなのは、「制度としては整っているが、実際には使われていない」という状態が、これまで以上に問題視される点です。
今回のコラムでは、育児休業法について概略を解説しつつ、は今回の改正によって何がどう変わるのか、現行法との違いを一つずつ整理していきます。
そもそも育児休業法とは何か?
育児休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は、育児や介護といった家庭上の事情を抱える労働者が、仕事を辞めることなく働き続けられるようにすることを目的とした法律です。1991年に制定され、当初は育児休業制度を中心とする比較的シンプルな内容でしたが、その後の改正を重ねる中で、短時間勤務制度や介護休業制度などが追加され、現在では「仕事と家庭の両立支援」を包括的に規定する法律へと発展しています。
近年では、単に休業を認めるだけでなく、復職や継続就業を前提とした制度設計が重視されており、企業には、労働者がライフイベントに直面しても離職せずに働き続けられる環境を整備することが求められています。
育児休業法とワークライフバランス
育児休業法は、近年の働き方改革やワークライフバランスの考え方と密接に関連しています。従来は、フルタイム勤務を前提とし、その例外として休業を認めるという構造が中心でした。しかし現在では、短時間勤務やテレワーク、時差出勤といった多様な働き方を前提に、個々の事情に応じた柔軟な就業を可能にする方向へと制度が変化しています。
また、単に仕事と家庭の「バランス」を取るという発想から一歩進み、育児や介護と仕事を両立させながら継続的に働くことを支援する仕組みへと進化しています。このような流れの中で、企業には制度の整備にとどまらず、実際に利用しやすい環境を整えることが求められており、対応の在り方が企業の評価にも影響を与える時代となっています。
育児休業法の近年の改正
近年の育児・介護休業法の改正は、「制度の拡充」から「実効性の確保」へと軸足を移している点に特徴があります。従来は、育児休業や短時間勤務制度といった仕組みを整備すること自体が重視されていましたが、実際には「制度はあるが利用されない」という課題が指摘されてきました。
こうした状況を踏まえ、2025年施行の改正では、子の看護休暇の対象拡大や残業免除の範囲拡張、テレワークの位置付け強化など、制度の対象や選択肢を広げる方向で見直しが行われました。これにより、より現実の子育て状況に即した制度へと整備が進められています。
さらに2026年施行の改正では、この流れを一歩進め、企業に対して制度を「実際に機能させること」が強く求められるようになります。単に制度を用意するだけでなく、労働者が状況に応じて利用できる環境を整備することが重視される点が大きな特徴です。
以下では、2026年施行の具体的な改正内容について、一つずつ詳しく見ていきます。
育児休業取得状況の公表義務の拡大
現行法では、従業員数1000人超の企業に対し、育児休業等の取得状況を公表することが義務付けられています。この制度は、企業ごとの取得状況を可視化することで、育児休業の取得促進や職場環境の改善を促すことを目的としています。
これに対し、2026年4月1日施行の改正法では、この公表義務の対象が拡大され、従業員数300人超の企業にも同様の義務が課されることとなります。
つまり、これまで義務の対象外であった中堅規模の企業にも、公表義務が新たに及ぶことになります。
この改正の背景には、一定規模以上の企業において、育児休業の取得状況を社会的に開示させることで、企業間の比較や自主的な改善を促すという政策的意図があります。企業にとっては、単なる社内指標ではなく、「外部から評価される情報」としての位置付けが強まる点に注意が必要です。
柔軟な働き方を実現するための措置義務の新設・強化
現行法では、3歳未満の子を養育する労働者に対して、短時間勤務制度を設けることが企業に義務付けられています。この義務は企業規模を問わず適用されるものであり、中小企業も含めてすべての事業主が対象となります。
もっとも、継続雇用期間が1年未満の労働者や、週の所定労働日数が極めて少ない労働者については、労使協定を締結することにより対象外とすることが可能です。また、業務の性質上、短時間勤務の導入が困難な場合には、時差出勤やフレックスタイム制などの代替措置を講じることも認められています。
このように、現行法においても一定の柔軟性は確保されているものの、その対象は主として「3歳未満」に限定されていました。
これに対し、2026年4月1日施行の改正法では、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対しても、柔軟な働き方を実現するための措置を講じることが企業の義務となります。
具体的には、企業は次のような措置の中から複数を選択し、制度として整備する必要があります。
・始業時刻の変更(時差出勤)
・テレワーク等の在宅勤務制度
・短時間勤務制度
・その他、育児と仕事の両立に資する措置
そして、これらの措置については、単に制度として存在するだけでなく、労働者が実際に利用できる状態にしておくことが求められます。
つまり、現行法が「一定の制度の整備」を求めていたのに対し、改正法では「複数の選択肢を用意し、実際に利用可能な環境を整えること」まで踏み込んで義務付けている点が大きな変更点といえます。
個別周知・意向確認義務の強化
現行法では、労働者本人またはその配偶者が妊娠・出産したことを申し出た場合、企業は当該労働者に対して育児休業制度等の内容を個別に周知し、取得の意向を確認する措置を講じることが義務付けられています。
しかし、実務上は形式的な説明や一律の案内にとどまるケースも多く、結果として制度の利用につながっていないという課題が指摘されていました。
また、この義務は企業規模にかかわらず適用されるものであり、中小企業や小規模事業者であっても例外ではありません。「従業員数が少ないから対象外」といった誤解も見受けられますが、そのような取扱いは認められていない点に注意が必要です。短時間勤務制度のように、労使協定によって対象労働者を包括的に除外する仕組みも設けられていません。
2026年4月1日施行の改正法では、この個別周知・意向確認の実効性がより重視されることになります。単に制度を説明するだけでなく、労働者が自身の状況に応じて適切に判断できるような対応が求められる点が重要です。
改正が企業実務に与える影響
今回の改正は、対象企業の拡大とともに、義務の内容自体もより実質的なものへと変化しています。
特に共通しているのは、「制度があること」ではなく、「実際に機能していること」が求められている点です。公表義務においては数値の信頼性が問われ、柔軟な働き方の措置においては実際の利用可能性が問われ、個別周知においては説明の実効性が問われます。
このように、いずれの改正点も、形式的な対応では足りず、運用まで含めた見直しを求める内容となっています。制度と運用の乖離は労使トラブルの大きな原因となるため、制度の整備状況だけでなく、実際の運用状況についても点検が不可欠です。
おわりに
今回の育児・介護休業法改正は、企業に対して「制度整備」から「実効性の確保」へと一段高い対応を求めるものです。
まずは改正内容を正確に理解し、その上で自社の制度と運用がそれに適合しているかを検証することが不可欠です。もっとも、実務に即した形での対応を検討するには、個別の事情を踏まえた判断が求められます。
自社の対応に不安がある場合や、どこまで対応すべきか判断に迷う場合には、早い段階で専門家に相談することが、将来的なリスクを回避するうえでも有効です。
当事務所では、就業規則の見直しから実務運用の整備、個別事案への対応まで、企業の状況に応じた法務サポートを行っております。育児・介護休業法への対応についてお悩みの際は、お気軽にご相談ください。