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一般企業法務

第9回企業法務コラム 知らないと危険?2026年施行「中小受託取引適正化法」の実務への影響

なぜ下請法は改正されたのか

2026年1月1日、「下請代金支払遅延等防止法」は、「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」として新たに施行されました。長年にわたり日本の取引慣行を支えてきた下請法ですが、近年、その枠組みだけでは十分に中小企業を守れなくなっているという指摘が強まっていました。

背景にあるのは、物価や原材料費の高騰、人手不足の深刻化、それに伴う人件費の上昇です。こうした環境変化の中で、受託側である中小企業は、コスト上昇分を価格に転嫁できないまま取引を継続せざるを得ない状況に追い込まれてきました。形式上は「対等な契約」であっても、実態としては発注側が優位に立ち、条件を一方的に押し付けるケースも少なくありません。

従来の下請法は、資本金額などを基準に適用対象を定めており、取引の実態と制度との間にズレが生じていました。その結果、本来保護されるべき中小事業者が法の網から漏れてしまうケースが問題視されてきたのです。こうした課題を踏まえ、「下請」という言葉に象徴される上下関係の発想を見直し、より実態に即した形で中小企業を保護する目的で、今回の法改正が行われました。

「下請法」から「取適法」へ – 名称変更が意味するもの

今回の改正でまず目を引くのが、法律名称の変更です。「下請法」という名称が使われなくなり、「中小受託取引適正化法」という新たな名称が採用されました。この変更は単なる言い換えではなく、法の考え方そのものが転換されたことを示しています。

「下請」という言葉には、どうしても上下関係や従属的なイメージが伴います。一方で、実際の取引現場では、業務委託や継続的な役務提供など、必ずしも典型的な「下請構造」とは言えない取引が増えています。取適法は、こうした多様化する取引形態を前提に、「受託側が中小企業である取引」を広く捉え、公正性を確保しようとするものです。

名称変更は、発注側企業に対しても、「従来の下請法の感覚のままでは不十分である」というメッセージを投げかけています。形式ではなく実質を見る、という姿勢がより強く求められるようになったと言えるでしょう。

取適法の適用対象はどこまで広がったのか

取適法の大きな特徴の一つが、適用対象となる取引や事業者の範囲が拡大された点です。従来の下請法では、資本金額の大小によって発注者・受注者の関係が機械的に判断されていました。しかし、取適法では、これまでの資本金基準に加え、従業員数による基準が新たに追加されました。すなわち、委託事業者・中小受託事業者が資本金基準又は従業員基準のいずれかの基準を満たす場合、取適法の適用対象となります。

また、対象となる取引に「特定運送委託」が追加されました。「特定運送委託」とは、事業者が販売する物品や、製造や修理を請け負った物品などについて、その取引の相手方に対して運送する場合に、運送業務を他の事業者に委託する取引です。

これにより、これまで「下請法は関係ない」と考えていた企業であっても、取適法の適用対象となる可能性が生じています。特に、業務委託契約や長期継続的な取引を行っている企業にとっては、改めて自社の取引関係を点検する必要があります。

重要なのは、「自社は中小企業向けに仕事を出しているかどうか」という視点です。発注側の規模が大きく、受託側が中小企業である場合、従来以上に取引の公平性が問われることになります。

取適法で強化された規制内容とは

取適法では、中小受託取引における不公正な行為に対する規制が強化されています。代表的なのは、取引条件の一方的な変更や、合理的理由のない代金の減額、支払条件の不透明さといった点です。

特に実務で意識すべきなのは、取引条件の明示義務です。曖昧な発注や、後出しで条件を変更するような対応は、これまで以上に問題視されるリスクがあります。口頭でのやり取りが慣行化している業界ほど、注意が必要でしょう。

また、コスト上昇局面において、価格交渉を実質的に拒むような姿勢も、取引適正化の趣旨に反するものとして評価される可能性があります。取適法は、単に「禁止事項を増やす法律」ではなく、発注側と受託側が適切にコミュニケーションを取り、公正な条件を形成することを求めていると言えます。

取適法の詳しい規制については、下記参考サイトをご確認ください。

政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html

施行後の企業実務で特に注意すべき点

取適法はすでに施行されており、企業には「これから対応する」のではなく、「今、適切に対応できているか」が問われています。特に注意したいのは、既存の取引慣行とのズレです。

長年続けてきた取引であっても、そのやり方が取適法の趣旨に反していれば、リスクが顕在化する可能性があります。契約書を交わしていない、発注内容が曖昧なまま業務が進んでいる、といったケースは、見直しの余地が大きいでしょう。

社内体制の面でも、現場任せになっていないかを確認する必要があります。法務部門や管理部門が取適法の内容を把握し、現場と連携しながら運用を見直すことが重要です。

違反した場合に想定されるリスク

取適法に違反した場合、行政指導や勧告、場合によっては企業名の公表といった措置が取られる可能性があります。これらは単なる法的リスクにとどまらず、企業の信用やブランドイメージに大きな影響を与えかねません。

また、受託側企業との関係悪化も無視できないリスクです。人手不足が深刻化する中で、優秀な取引先から敬遠されることは、事業継続に直結する問題となります。取適法対応は、リスク回避であると同時に、持続的な取引関係を築くための投資とも言えるでしょう。

施行後の今、企業が確認すべきこと

取適法が施行された今、企業に求められるのは、現状の取引が法の趣旨に沿っているかを冷静に見直すことです。自社の取引が適用対象に該当するか、契約内容や運用に問題がないかを一度整理するだけでも、リスクの見え方は大きく変わります。

判断に迷う場合や、対応に不安がある場合には、早めに専門家へ相談することも有効です。取適法は、企業活動の細部に影響を及ぼす法律であるからこそ、実務に即したアドバイスが重要になります。

取適法は、知らなかったでは済まされない法律です。すでに施行されている以上、「自社の取引は本当に大丈夫か」「これまでの慣行がリスクになっていないか」を一度立ち止まって確認することが重要です。当事務所では、中小受託取引を含む企業間取引の実務に即した法的チェックや、契約・運用の見直しについてご相談を承っています。気になる点がある段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。

簗田真也

弁護士法人やなだ総合法律事務所、代表弁護士。札幌弁護士会所属。スタートアップ・ベンチャー法務、不動産法務、M&A、事業再建・会社清算、国際取引法務を得意とする。弁護士・司法書士・行政書士のトリプルライセンスホルダーでもある。

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