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一般企業法務

第7回企業法務コラム 企業法務の基本、リーガルチェックとは何か?企業が知っておくべきその目的と意義

はじめに – なぜ今、企業にリーガルチェックが求められるのか

現代の企業活動は、法的ルールと切り離すことができません。事業規模の大小にかかわらず、企業は日々、取引契約、広告・マーケティング、個人情報の取り扱い、労務管理など、多岐にわたる法的リスクに直面しています。しかも、これらのリスクは一度顕在化すると、損害賠償や行政処分にとどまらず、企業の信用失墜や事業停止といった経営上の重大な影響を及ぼします。

また、SNS時代においては、法律に反していなくても「不適切」と判断されれば一気に炎上するリスクもあり、企業の reputational risk(評判リスク)は以前より格段に高まっています。そこで重要になるのが、企業活動のさまざまな場面において、法的観点から問題がないかを事前に確認する「リーガルチェック」です。リーガルチェックは、単なる契約書の点検作業ではなく、企業全体のリスクマネジメントの基盤となる行為です。

企業がトラブルに直面してから対応するのでは遅く、対応コストも膨らみます。だからこそ、事前のリーガルチェックにより、潜在的な問題を早期に発見し、未然に防ぐ体制を整えることが求められています。

そもそもリーガルチェックとは何か

リーガルチェックとは、企業の行う活動や作成する文書について、法律や行政規制との整合性を確認し、法的トラブルを避けるための予防的なチェック作業を指します。契約書レビューのイメージが強いものの、実際には契約だけに限らず、事業スキーム、広告表示、個人情報の取り扱い、社内規程など、企業運営のあらゆる領域で行われる広い概念です。

リーガルチェックの本質は「事前のリスク把握と対応」です。これは、問題が発生してから解決する“事後法務”ではなく、問題を未然に防ぐ“予防法務”の中心的な役割を担います。企業にとっては、事業の方向性やビジネスモデルに適合する法務判断を得ることで、安心して意思決定を行うことができる仕組みと言えるでしょう。

リーガルチェックは単なる「文言の確認」ではありません。企業の実際の業務内容や取引の背景を踏まえ、どのようなリスクが潜んでいるのかを洗い出し、そのリスクをどこまで許容するのか、どの部分を修正すれば安全なのかを考えます。つまり、法務の観点からビジネス全体を俯瞰し、適切なリスクコントロールを行うプロセスなのです。

リーガルチェックの目的・意義

リーガルチェックの目的は一言でいえば「企業を法的リスクから守り、健全な運営を可能にすること」です。しかし、実際にはそれ以上の意義を持っています。最も基本的な目的は法的リスクの予防ですが、リーガルチェックは企業の経営判断の質を高め、ビジネスの継続性を支える役割を果たします。

まず、法的リスクの予防という観点では、契約条件の不整合や不当な条項、業法違反の可能性、表示規制違反のリスクなど、多岐にわたる潜在的な問題を事前に発見できます。トラブルの発生を防ぐことは、損害賠償や紛争対応にかかるコストを大幅に削減する効果があります。

さらに、リーガルチェックは経営リスク全体のコントロールにも資するものです。企業活動は単に法的に正しいかどうかだけでなく、ビジネスとして持続可能であるか、ステークホルダーからの信頼を維持できるかが問われます。法的整合性を確保することは、企業の信用向上、取引先からの信頼獲得、行政からの評価にもつながり、結果として企業価値を高めます。

リーガルチェックには、次のような意義があります。

▪️法的トラブルを未然に防ぎ、紛争コストを削減する
▪️経営判断の精度を高め、事業運営を安定させる
▪️ガバナンス・コンプライアンスの強化につながる
▪️ステークホルダーからの信頼を獲得する
▪️企業価値を維持・向上させる

こうして見ると、リーガルチェックは企業にとって「守り」だけでなく、「攻め」の機能も持つことがわかります。

リーガルチェックが企業にもたらすメリット

リーガルチェックを導入することで、企業は多くのメリットを享受できます。最も分かりやすいのはトラブルの回避ですが、それだけではありません。リーガルチェックは企業の成長に資する“投資”と捉えることができます。

例えば、契約書を事前にチェックすることで、不利な条件を押し付けられたり、予期せぬ責任を負わされたりするリスクを大幅に軽減できます。これは単にリスクを減らすだけでなく、交渉力を向上させ、より良いビジネス条件を獲得することにもつながります。

広告表示やマーケティングのチェックは、行政処分や炎上による信用毀損を避けるだけでなく、情報発信の質を高め、ブランド価値を維持する効果があります。また、個人情報の取り扱いに関するリーガルチェックは、今や企業にとって不可欠な信頼基盤であり、安全なデータ活用を可能にします。

社内規程や内部統制についてリーガルチェックを行えば、従業員トラブルを防ぎ、組織の健全性を高めることができます。これは、企業の持続的な成長を支える土台になります。

要するに、リーガルチェックのメリットは「トラブルを避ける」という消極的なものに留まらず、企業の信用向上、効率性の改善、事業推進力の強化など、積極的な価値を生み出す点にあります。

リーガルチェックで確認するポイントと、不足した場合に生じるリスク

リーガルチェックの対象は企業活動の広い範囲に及びますが、ここでは特に重要な領域と、チェックが不十分だった場合にどのようなトラブルが起こるかを紹介します。

まず契約関連では、契約目的が明確か、義務と権利がバランスよく定められているか、損害賠償や責任範囲が適切かといった点が重要です。これらが不明確であれば、支払いトラブルや債務不履行をめぐる紛争、想定外の損害賠償請求につながる可能性があります。また、知的財産や秘密保持に関する条項が不十分であれば、思わぬ権利侵害や情報漏えいのリスクを抱えることになります。

社内規程の整備も重要な領域です。就業規則や情報管理規程、ハラスメント規程などが法令に適合していなかったり、現実の業務に合っていなかったりすれば、従業員トラブルや情報管理の不備を招き、その結果として重大な信用毀損に至ることもあります。

個人情報の取り扱いについても、リーガルチェックが欠かせません。個人情報保護法だけでなく、企業の提供サービスによってはGDPRなど海外の規制も影響します。不適切な管理や説明不足は、漏えい事故や行政処分を招くだけでなく、顧客との信頼関係を根底から揺るがします。

マーケティングや広告表示に関しても注意が必要です。景品表示法や薬機法、特定商取引法に抵触する表現を使用すれば、措置命令や課徴金といった行政対応はもちろん、SNSでの炎上による風評被害という形で深刻な影響が生じる可能性があります。

さらに、事業スキーム全体の整合性もチェックすべきポイントです。複数の契約が関連するビジネスモデルでは、それぞれの契約が互いに矛盾していないか、下請法や業法に抵触する構造になっていないかを確認する必要があります。不整合があれば行政処分や取引停止など、経営に直結するリスクが発生します。

このように、リーガルチェックが不足すると、企業はさまざまな方向からリスクにさらされます。適切なチェック体制を整えておくことは、企業にとって不可欠です。

おわりに – リーガルチェックを企業の基本インフラに

リーガルチェックは、企業のリスクマネジメントと予防法務の中心的な役割を果たします。リーガルチェックを適切に行うことは、企業活動の安全性を高め、健全な経営の基盤を築く第一歩です。

法務は単なる「コスト」ではなく、企業価値を守り育てるための「投資」です。今後さらに事業が発展し、法的リスクが複雑化するほど、リーガルチェックの重要性は増していきます。企業として安定した成長を目指すのであれば、早い段階からリーガルチェックを仕組みとして取り入れることが欠かせません。

リーガルチェックを継続的に機能させるためには、単発の確認だけでなく、企業の実情を把握した専門家による継続的なサポートが欠かせません。当事務所では、契約書レビューや広告・表示チェックはもちろん、事業スキームの相談、社内規程の整備、個人情報保護への対応など、企業活動全体を見据えた顧問サービスを提供しています。企業ごとのリスク特性に応じて、実務に寄り添った、現場で使える法務支援を行うことが特徴です。法務体制の強化やリスクマネジメントの整備をご検討の企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。事業の安定と成長を支えるパートナーとして、全力でサポートいたします。

簗田真也

弁護士法人やなだ総合法律事務所、代表弁護士。札幌弁護士会所属。スタートアップ・ベンチャー法務、不動産法務、M&A、事業再建・会社清算、国際取引法務を得意とする。弁護士・司法書士・行政書士のトリプルライセンスホルダーでもある。

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