相談予約はコチラ

一般企業法務

【2026年10月施行予定】カスハラ対策が義務化!-改正労働施策総合推進法が実務に及ぼす影響-

2026年10月に施行予定の2025年改正「労働施策総合推進法」により、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策が企業の義務とされました。特に、近年、「現場の忍耐」に頼る経営が避けられないとして問題視されている介護業界や対人サービス業界において、現場従業員の忍耐に頼る経営からの脱却を迫る大きな転換点となります。
本稿では、法務・実務担当者が押さえるべき4つの視点から、この法改正・新制度を解説します。

なぜ今、「義務化」なのか

これまでも上司からのパワーハラスメントといった社内における環境整備対策は義務化されていましたが、顧客や取引先からのハラスメント対策については「企業の努力義務」と位置付けられるに留まっていました。
しかし、以下の背景から法改正が行われるに至りました。

  • 従業員離職率の深刻化: 介護や小売の現場で、利用者本人やその家族等から過度な要求や暴言をうけることにより、有望な人材がメンタル疾患にかかり、離職・休職に追い込まれる事態が頻発しています。
  • 安全配慮義務の具体化: 企業には従業員を安全な環境で働かせる「安全配慮義務(労働契約法第5条)」が課せられていますが、カスハラ放置がこの義務違反に問われる裁判例が蓄積し、明確な指針の設定が求められていました。
  • 「お客様は神様」の終焉: 悪質なクレーマーに対し、個人の裁量ではなく組織として毅然と対応する法的根拠が必要となりました。

企業に課せられる「カスハラ防止措置義務」の内容

改正法により、事業主は以下の措置を講じることが義務付けられました。これらを怠ると、行政指導や社名公表、さらには従業員からの損害賠償のリスクに直結することとなります。

  • 方針の明確化と周知・啓発: 「カスハラは許さない」というトップメッセージを出し、カスハラの内容及び予め定めた対処内容をマニュアル化するなどして労働者に周知させること。
  • 相談体制の整備: 相談窓口を設置し、被害を受けた職員が孤立しない仕組みを作ること。
  • 事後対応: カスハラに関する事実関係を迅速かつ正確に確認する体制を整え、被害者に対するメンタルヘルス支援や必要に応じた配置転換、再発防止に向けた措置を講じること。
  • その他の措置: 相談者のプライバシー保護や相談による不利益取り扱いをしない旨を就業規則に規定して労働者に周知すること。

カスハラと「正当なクレーム」の判断基準

実務において最も重要なのは、現場が「これはカスハラだ」と自信を持って判断できる基準を提示することと言えます。
厚生労働省の指針に基づき、「社会通念上許容される範囲を超えた言動」に該当するか否かについて、以下の2軸で判断されることとなります。

① 要求内容の妥当性
-契約範囲外のサービス要求、法外な金銭要求、特定の職員への解雇要求など
② 手段・態様の妥当性
-暴行、暴言・脅迫・中傷・名誉棄損、土下座の要求、執拗な連絡、不退去・居座り、SNSへの投稿示唆など

法務がとるべき具体的施策

2026年10月の施行に向け、事業主が主導して進めるべき措置は以下の通りです。

① 利用契約・重要事項説明書の改訂

「カスタマーハラスメントに該当する行為があった場合、サービスの提供を一時停止、または契約を解除できる」旨の条項を明文化します。これにより、現場が「法的根拠」を持って対応を断れるようになります。このほか、カスハラを受けた被害者が適切冷静に対処できるようマニュアルを作成・周知しておく必要があります。

② 証拠確保のルール化

言った・言わないの争いを避けるため、録音・録画の運用ルールを整備します。「防犯およびサービス向上のため、対応を録音・録画させていただく場合があります」という告知を掲示・書面化することも有効です。

③ 「複数人対応」の標準化

特に訪問介護や個室での対応が必要な場合、リスクが高い利用者に対しては2人1組での対応を原則としたり、ボイスレコーダーを携行させたりする等の運用を法務・人事・現場が連携して構築します。

おわりに

カスハラ対策は、単なる「現場トラブルの処理」にとどまるものではありません。従業員を守ることにより「人材の確保とブランド価値の守護」を図るための有効な手段です。
事業体として「拒否する勇気」を仕組みとして実装し、「現場の忍耐」に頼る経営からの脱却を迫ることが、次世代の企業法務に求められています。

関連記事

TOP